布施英利×港千尋 対談 ヒト(人間)はなぜ絵を描くのか 『洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年』( 論創社) 刊行記念 公開対談載録 (於・青山ブックセンター本店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月23日 / 新聞掲載日:2018年11月23日(第3266号)

布施英利×港千尋 対談
ヒト(人間)はなぜ絵を描くのか
『洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年』( 論創社) 刊行記念 公開対談載録 (於・青山ブックセンター本店)

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第5回
□洞窟壁画と現代アートの接続発生と系統発生


布施 
 本書では、息子と二人で洞窟壁画をめぐる旅をしていますが、彼はいま大学院で現代アートを専攻していて、「iPhone mural(iPhoneの洞窟壁画)」という展覧会を開くなど、洞窟壁画について少し違った見方をしています。そもそもなぜ洞窟壁画に惹かれたのかなど、息子の琳太郎がお話しさせていただきます。

――布施琳太郎と申します。僕はアーティストで東京芸術大学大学院の映像研究科というところに在籍しています。二〇一六年に iPhoneと洞窟壁画をテーマに展覧会を開いて、それが自分の中でいまだに続く興味となっていて、ここでは洞窟壁画と繋がりながら今を生きながらどういう作品を作っているかお話をいたします。

◆フィンガー・フルーティングとiPhone

――洞窟壁画における描画の方法には主に三種類あると自分では整理していて、何らかの道具(筆、指、手のひらなど)に塗料をつけて洞窟の壁に押しつけたりこすりつける方法やストローや口を使ってスプレー状に吹きつけると同時に壁面を指先や棒、石などで削り取って描く方法。それから柔らかい壁に指で直接描くフィンガー・フルーティングと呼ばれる画法があって、なかでもフィンガー・フルーティングの抽象化されたラインに僕は特別なインスパイアを受けました。先ほど模倣という話もありましたが、洞窟壁画と脳内のイメージとの格闘で最も先鋭化して出ているのがこれなのではないかと思って、その格闘において道具を用いずに直接指で対象に触れているということがとてもドラマチックだと感じました。そのときに iPhone を触る自分のことを思い出したんです。

◆作品「地図と領土」

――iPhoneを操作するときというのは画面に表示された画像を指で操作するわけですが、そこでは僕と対象とが直接触れ合っているかのように感じられてしまう体験があって、それと洞窟壁画の中で脳内のイメージと格闘している様子というのは何か繋がるところがあるのではないかと思いました。そこで作った作品が「地図と領土」(左上写真)です。インターネット上には「自撮り」と呼ばれる顔写真がたくさん上げられていて、それらはいろんな指先で触られて送り出されている。そこでのコミュニケーションやそこにあるイメージと指先の関係とか、そういうことを一つの作品に収めたいと思って作りました。

◆触覚にすべてがたたみこまれる

――洞窟壁画というのは上下左右にうねって突然隆起してとても複雑な襞があってそういう形状をしています。洞窟の中では明かりを灯す皿を持って歩いていくわけですが、先史時代は今と違って非常に弱い炎で暗いわけです。ですから洞窟内の目で見える情報というのは、明かりを持った腕の動きで操作されたものが映像となるわけです。洞窟という空間では動き回って発生する音もエコーがかかって反響して、それも触覚にたたみこまれて、すべての感覚が触覚にたたみこまれる空間なんだと思いました。そういう場所で人間は最初に非日常的なこと、今の言葉でいう芸術をやっていた。それはいわゆる建築というものが出てきて以降の人間たちがある意味失ってしまった感覚なのではないかなと思って、現代のiPhoneは改めてもう一度触覚にすべてをたたみこんでいく装置なんだなと思いました。僕はペインティングのようなものを描きながら、触覚にすべてがたたみこまれた時代の風景みたいなものを体験型のインスタレーションと呼ばれる表現として発表したり、そういった形で僕なりに洞窟壁画というものを受け止めながら二一世紀に生きる人間として作品を作っています。

 (以上、布施琳太郎氏)
布施 
 先史時代の洞窟壁画は、現代において新しい芸術を作ることにおいても、実はかなりいろいろな力になる可能性を秘めている。その一つの実例として紹介しました。

港さんは現代アートの分野でも前回のあいちトリエンナーレの芸術監督を務めるなど、日本を代表して牽引されている方ですが、洞窟壁画の魅力や可能性についてお話しいただけますか?
港 
 コンテンポラリー・アートの作家と考古学者の対話ということに関していえば少なくともフランスでは八〇年代、もしかしたらもっと以前からかなり積極的に行われてきたと思います。今はそこに実験考古学の考古学者とアーティストがペアになって夏休みのワークショップや教育も含んだプログラムを特にフランスやスペインの文化庁、文部省は積極的にやっていると思います。ですから先史時代だからといって考古学者だけに任せておくという考え方は全くないと思います。ショーヴェ洞窟もラスコーも積極的にアーティストを招聘して、彼らが現在形でどう見るかということに取り組んでいます。
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この記事の中でご紹介した本
洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年/論創社
洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年
著 者:布施 英利
出版社:論創社
以下のオンライン書店でご購入できます
「洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年」出版社のホームページはこちら
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