揺れ動く〈保守〉現代アメリカ文学と社会 書評|山口 和彦(春風社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月24日 / 新聞掲載日:2018年11月23日(第3266号)

文学がどのように政治的動向を写し取ってきたかを再検討

揺れ動く〈保守〉現代アメリカ文学と社会
著 者:山口 和彦、中谷 崇編
出版社:春風社
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 二○一三年に出版された中島岳志の『「リベラル保守」宣言』(新潮社)において、中島は西部邁の「自由民主主義は保守主義であらざるをえない」という主張をきっかけに、「リベラル」と「保守」との関係を洗い直す作業をしたと述べている。また、「リベラル」と「保守」は対立概念ではない、という旨の発言が日本の政治家からあったことも記憶に新しい。「リベラル」と「保守」をめぐる言説は、今日の日本でも様々に生み出され続けている。

一方で渡辺靖はアメリカにおける「リベラル」と「保守」を公権力の介入の有無を基軸にすえて説明しつつも、共通の土俵として「自由主義」があることを指摘する(『WebRonza』)。さらに会田弘継は『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)において、格差を問題視することは「リベラル」も「保守」も同様であり、どちらも格差に怒りや不安を抱えている中間層に支えられている点で、両者は「一つのコインの裏表」だと述べる。

こうした説明を読みすすめると、自分の中でぼんやりとこれらの言葉の概念がまとまってきたり、しかしまた霧散していったりを繰り返す。掴みがたいからこそもっと知りたいと思ったりもする。たとえば物語の中で、こうした概念がどのように現れているのか。山口和彦・中谷崇の編著による論文集『揺れ動く〈保守〉——現代アメリカ文学と社会』は、まさにこうした希望に応えてくれる一冊である。

本書は、近年目に見えて「リベラル」と「保守」に「分裂」しているように見えるアメリカの姿をきっかけに、そもそも文学がどのようにその政治的動向を写し取ってきていた(いる)かを再検討する。収録された一○本の論文は、ウィラ・キャザーやヘミングウェイをはじめとして、カーソン・マッカラーズ、ジョン・オカダ、ジョン・アップダイク、トニ・モリスン、コーマック・マッカーシー、ボビー・アン・メイソン、ブルース・スプリングスティーン、そしてドン・デリーロまでを扱い、二○世紀全体をカバーする内容になっている。

編者・中谷があとがきで「キーワードである『保守』、およびそれと対概念になる『リベラル』(中略)について、あらかじめ参加者の認識の統一を図ることはしなかった」と述べているとおり、本書を通読してもこれらの概念へのすっきりとした理解には至らないし、本書の狙いはそもそもそこにない。そうではなく、いかに「リベラル」と「保守」がときに相互に補完しあい、ときに分かちがたく絡み合っていたかが、多彩な論考から浮かび上がってくる。

すべての論文を紹介することは紙幅の関係でかなわないが、とりわけ印象深かったのは山本洋平によるキャザー論である。二○年代には人気作家としての地位を確立していたキャザーが、三○年代にはいると「保守的」で「時代遅れ」として批判されるようになる。キャザーの芸術主義的態度を認めつつ、山本は女性登場人物の大学進学をめぐる学費問題という「きわめて現実的な問題」を描いた短篇作品に着目することで、キャザーの政治的葛藤をあぶりだす。本論は私的領域、周縁化される女性、さらに家族概念の再構成を含む作品の魅力を、巧みに引き出している。

佐々木真理によるマッカラーズ論では、『結婚式のメンバー』を扱い、主人公の少女フランキーが体現する「進歩的な抵抗」を再考し、逸脱の可視化によって、彼女のリベラルさがかえって自身内部の規範を強化していることを明らかにする。

本書の最後に収録されているドン・デリーロの新作『ゼロK』を扱った渡邉克昭は、独自の視点で「保守」を論じている。人体冷凍保存術が描かれる本作において、時間を超える生命の政治性というポストヒューマン批評からみた「生命の保守」が触発する「倫理的想像力」へと議論が及ぶ本論は、ひじょうにスリリングだ。

二○世紀アメリカの文学的想像力の中に宿る「保守」の物語を前景化させる本書は、タイトルが示す通り、まさに「保守」が「揺れ動く」様を描き出す。その「揺れ」をどう捉えるか。本書はわれわれに問いかける。
この記事の中でご紹介した本
揺れ動く〈保守〉現代アメリカ文学と社会/春風社
揺れ動く〈保守〉現代アメリカ文学と社会
著 者:山口 和彦、中谷 崇編
出版社:春風社
以下のオンライン書店でご購入できます
「揺れ動く〈保守〉現代アメリカ文学と社会」出版社のホームページはこちら
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