三島由紀夫の思想 (松本徹著作集2) 書評|松本 徹(鼎書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月24日 / 新聞掲載日:2018年11月23日(第3266号)

三島の文芸と政治行動の双方を統合的に語る
明治以前の日本の文学の多様な営為を引き継ぎ展開する役割

三島由紀夫の思想 (松本徹著作集2)
著 者:松本 徹
出版社:鼎書房
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「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ」

川端康成が残した名言だが、松本徹はこれにつづけて、「秋聲から三島に飛ぶ」という。

源氏から西鶴へ飛ぶのは、わかりやすい(中間に平家が入ると、さらにわかりやすい)。文学全集を通読すれば、両峰の高みは歴然とする。しかし、西鶴から秋聲へ、という線がわかりにくい。これが私には長らく謎だったが、松本徹著作集①『徳田秋聲の時代』を読んだら腑に落ちた。

なぜ、西鶴から秋聲か。端的にいえば、秋聲には明治から昭和初期までの社会史・文学史の見事な縮図があるからだ。秋聲は西欧近代小説を懸命に摂取吸収して膨大な長編通俗小説を書きつづける一方、意図せずに自然主義への道を歩みだした。しかも、一貫してインテリ文芸でなく、庶民の暮らしに根ざした文芸をつむいだ。

次に、なぜ、秋聲から三島か? 著作集②の本書を読むと納得が行く。つまり、戦前・戦後に分断された昭和の社会史・文学史の見事な縮図が三島にあるからだ。だれよりも三島は昭和の分断を鮮やかに生き、むごたらしく埋めた。秋聲とちがって三島に庶民の声はかぼそくとも、忘却に晒される戦争の死者たちの声は明瞭に聴こえてくる。

昭和史に戦前・戦後の亀裂があるように、三島には文芸と政治行動との間に亀裂があり、両面はしばしば分裂的に語られる。たとえば、一方が重く、他方が手薄になる。たとえば、一方が目的となり、他方が手段となる。松本徹はどちらにも傾かず、双方に精緻な理解をめぐらし、双方が目的となるべく、統合的に語ることができる。

なぜ、統合が可能になったのか? おそらく、一段退いて眺めることができたからだろう。一段退いて眺めるための梃子が、歴史と古典に対する造詣だろう。研究者としての履歴だけでなく、ジャーナリストとしての履歴が裨益している、と私は推察する。

三島研究の奥の院は、天皇へのアプローチである。そこには昭和の社会史・文学史、三島の個人史・家族史が不可分に交わってくるので、膨大な目配りが必要になる。たやすい作業ではない。 

三島の天皇には二つの顔がある。苛烈な一神教的な顔と、文化を吊り支える顔なき顔である。前者は戦争に動員された学徒たち(三島もその一人だった)が、自分が死ぬための大義を見出そうとして渇望した顔だった(三島の死は二十歳の出征の再現だったともいえる)。後者は、空気に似て、つかみどころがない。スコープを狭くとれば、古今集や源氏の古典ということになるし、スコープを広くとれば、日本語の言語空間・精神的感性的秩序体系ということになる。この秩序体系を、松本徹は「あめつちを動かす」秩序体系と呼んで、三島の天皇論の前面に押し出す。

著者はきっぱりいう。「三島は最期の行動に出て、憲法改正と自衛隊の国軍化を訴えて天皇陛下万歳を唱え自決したが、最終的に提示したのは、この『あめつちを動かす』秩序体系の確立と保存であったと受け取らなくてはなるまい」。

三島が果たした最大の役割は、「明治以前の日本の文学の多様な営為を引き継ぎ、展開する役割」だった、と著者は再三読者に確認を迫る。

著作集と銘打つのに、書き下ろしと単行本初収録の論考が大部分を占めるという異例の編み方である。著者は書いて書いてやまぬ。その書いてやまぬ情念は、「あめつちを動かす」運動体と一体化しているようにも見える。ひょっとすると、著者は書いているのでなく、書かされているのかもしれない。何によって? 「あめつちを動かす」秩序体系によって。

最後に一つ。日本の小説は源氏から西鶴に、西鶴から秋聲に、秋聲から三島に飛ぶ、とすれば、三島の次はだれ? 村上春樹、と答えたら、著者はお嗤いになるだろうか。
この記事の中でご紹介した本
三島由紀夫の思想 (松本徹著作集2)/鼎書房
三島由紀夫の思想 (松本徹著作集2)
著 者:松本 徹
出版社:鼎書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「三島由紀夫の思想 (松本徹著作集2)」出版社のホームページはこちら
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