マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」 書評|冨田 浩司(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 社会・政治
  5. 国際政治情勢
  6. マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年11月24日 / 新聞掲載日:2018年11月23日(第3266号)

マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」 書評
類い稀な女傑を描いた一代記
イギリス政治の諸相が浮かび上がる

マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」
著 者:冨田 浩司
出版社:新潮社
このエントリーをはてなブックマークに追加
本書は在英国大使館公使であった外交官によるマーガレット・サッチャーの一代記で、類い稀な女傑を描いて興味深い仕上がりとなっている。

「鉄の女」(Iron Lady)の異名で知られるサッチャーは、イギリス初の女性首相であるが、それ以前にはイギリス保守党最初の女性党首でもあった。また毀誉褒貶の激しい政治家でもあったが、本書によれば「彼女は長年の議会での経験のおかげで政治的老獪さを備えていたが、政治以外の分野では驚くほど世間知らずでもあった」(283頁)。つまりある意味で、捕らえどころのない人物でもあった。

サッチャーは1925年10月13日に、リンカンシャー州グランサムで父親のアルフレッドが営んでいた食料品店の2階で生まれている。このグランサムはアイザック・ニュートンが十代を過ごしたところとしても知られている。

彼女の生家は代々メソジストの熱心な信徒であり、彼女の表現によると「私は実用的で、真剣で、熱烈な宗教的な家庭に生まれた」ことになる。つまり彼女の信条である「質素倹約」と「自助努力」の源泉は、生い立ちの家庭環境にあったことが分かる。

オックスフォード大学に進学したサッチャーは化学を専攻して1947年に卒業する。他方、経済学にも関心を持ち、それが後に彼女が推進した新自由主義(ネオリベラリズム)的な経済改革(いわゆるサッチャリズム)に連なっていく。

下院議員として初当選したのは1959年で、1970年からはヒース内閣で教育科学相に任命されている。この時、教育予算削減を迫られたサッチャーは、学校での牛乳無償配布の廃止を決定することになり「ミルク泥棒」との非難を浴びることになる。英語ではMilk Snatcherであるが、これはMargaret Thatcherをもじった造語である。snatcherとは「掠め取る人」という意味であるから、かなり辛辣な言い回しとなっている。

サッチャーの広報補佐官であったインガムは、彼女の政治家としての資質として、思想的確信、道徳的勇気、一貫性、仕事をやり抜く鉄の意志に加えて、「愛されることを望まなかった」ことを挙げている(284頁)。彼女の面目躍如たるところが窺える。この資質が一挙に現出したのが、1982年に南大西洋のフォークランド諸島の帰属をめぐって発生した紛争においてであった。世に言うフォークランド紛争である。

この島嶼は、それまでにも領有権をめぐって争いが繰り返された歴史を有しているが、今回の紛争はガルティリ将軍が率いるアルゼンチンの軍事政権が、かねてからの計画に基づいてマルビナス諸島(フォークランド諸島のアルゼンチン名)の占領を決断し、島への上陸作戦を決行したことに発している。

この報に接したサッチャーは即座に反撃を決意し、艦隊を遠路派遣した。その結果、両軍合わせて4万人に及ぶ兵員が投入される戦闘が行われた。イギリス軍も多大な犠牲を出したが、首都スタンレーの攻防戦で勝利して戦いを制する結果となった。サッチャーの断固とした姿勢が勝利を呼び込んだというのがイギリス国民の評価となった。この戦争は1975年のサッチャー政権発足以来の最大の試練であり、この勝利によって3期11年半に及ぶ長期政権への足掛かりが出来たのである。この間の状況を本書から引用すると次のようになる。

「戦う女王(Warrior Queen)とは、この戦争で強力な指導力を発揮した彼女に与えられた称号である。しかし、この間彼女が直面した任務は単なる軍事作戦の指導に留まらない。むしろ、フォークランド戦争が露呈したのは、戦争が違法化された戦後の国際社会で民主主義国家が戦争を行うことの難しさであり、その意味で彼女の指導力は極めて多面的な試練に直面した。「戦う」ことはそのほんの一部に過ぎなかったのだ。」(112頁)

外交の当事者であった著者だけに、深い考察に裏付けされたイギリス政治の諸相が、サッチャーという政治的指導者を通じて浮かび上がってくる。書き手に人を得たことで、読み応えのある出来栄えの一冊となっている。
この記事の中でご紹介した本
マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」/新潮社
マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」
著 者:冨田 浩司
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
吉田 一彦 氏の関連記事
冨田 浩司 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 国際政治情勢関連記事
国際政治情勢の関連記事をもっと見る >