上妻世海×奥野克巳×古谷利裕 別の身体を、新しい「制作」を 『制作へ 上妻世海初期論考集』(エクリ) を読む|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月30日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

上妻世海×奥野克巳×古谷利裕
別の身体を、新しい「制作」を
『制作へ 上妻世海初期論考集』(エクリ) を読む

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第4回
❖言語は、音楽であり、身体である

古谷 利裕氏
古谷 
 僕が『制作へ』の中で、重要に思ったのは、上妻さんが批評家ではない立場から語っていることでした。批評は言葉から言葉へ、記号から記号へ流れます。概ねの批評は、既に象徴化されている言葉を操つる「記号操作」のみで成り立っています。それに対して、未分化なところから、新たに表現を摑み出そうとするのが「記号接地」。上妻さんは、言葉を現実といかにして結び付けようか、というときに、未分化なものを放り込んで、既に象徴化された記号自体を変えていくような試みを、積極的に行っている。どうしたら記号を変えていけるかを考えている。それは批評では、なかなか出て来ない。
上妻 
 ヴィラヤヌル・ラマチャンドランが「数字に色を見る人たち」という論文で示すように、二つ以上の感覚が混ざり合う「共感覚」という能力を、僕らは持っているのだそうです。例えば、ブーバ・キキ効果という有名な実験があります。二つの画像のどちらがブーバで、どちらがキキか尋ねると、九八%ほどの人が、曲線の図形をブーバ、ギザギザの図形をキキと答える、というものです。言語とは、視覚情報のみならず、音や触覚や動きなど、異種感覚情報(クロスモダル)の統合によって作られる抽象概念であるという、脳科学的仮説があるわけです。同様にメタファーとは「ジュリエットは太陽だ」という具合に、一見無関係な概念を結び付けるものなのだと。
奥野 
 そして、ソシュール的な言語のみが、世界と関わるツールではないという方向へ、話を展開していきますね。「言語とは世界と分離した恣意的かつ慣習的な記号システムではない」と。「僕たちは世界と共鳴し合い、音、形、リズムと絡まり合いながら意味を生成している」、それが制作的な空間に降りていく手引きとなるということですよね。
上妻 
 象徴的で単純化されたソシュールの規約的な体系を前提とした言語だけでなく、振る舞いや身振り、音やリズム、声色、音の動き、大小の変化等々を含めて、言語として捉える必要があるのではないかと。となると実は、テキストとは身体なんです。つまり、決して身体から切り離されたものではない。それを証明したくて、僕自身、書いているところがあります。
コーンは、ある鳥の鳴き声を、死を予兆するものだと、シンボル的に捉えるのか。あるいはそのリズムや声の大小、遠ざかっているのか近づいているのかまでを感知するのか。感じ取り方で、鳥の鳴き声が、周囲にいるジャガーやペッカリーの気配も伝えてくれる。別の可能性が開かれてくるのだといいます。
パースのいう、イコン、インデックス、シンボルを創発関係として、言語体系を捉えたとき、音楽的に言葉を捕まえるようになるだろう、というのが僕の見立てです。
同じ歌を、シンガーが歌った場合は感動して涙がこぼれる。でも僕が歌った場合は、ちょっと静かにしろよ、となるかもしれない(笑)。シンボル的には同じ意味を伝えているのに、伝わるものが全く違うわけですよね。そこには、抑揚やリズム感、声色や感情、そうした要素が同時にあって、その価値を全く変えてしまう。本当の言葉を用いて世界を解釈するために、必要な言語観があるのだと思うのです。僕はそうした言語は、音楽であり、身体であるだろうと考えています。まだ論として展開しきれていませんが、ほとんど確信しています(笑)



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この記事の中でご紹介した本
制作へ 上妻世海初期論考集/オーバーキャスト エクリ編集部
制作へ 上妻世海初期論考集
著 者:上妻 世海
出版社:オーバーキャスト エクリ編集部
以下のオンライン書店でご購入できます
森は考える 人間的なるものを超えた人類学/亜紀書房
森は考える 人間的なるものを超えた人類学
著 者:エドゥアルド・コーン
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「森は考える 人間的なるものを超えた人類学」出版社のホームページはこちら
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