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”Letter to my son"
更新日:2018年12月4日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

Letter to my son(19)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI


待ち合わせから15分ぐらいすぎた頃、横断歩道の向こうから黒いジャケットにサングラス姿の青年が走って来る。「ごめん遅れて。二度寝しちゃって」。濡れた真っ黒の艶やかな髪をいじりながら謝る青年。「大丈夫です。こちらこそ急にモデルお願いしてしまって。引き受けてくれて、というかやっと会えてすごく嬉しいです」。「よかった!」初対面の青年がいきなり肩に手をまわし寄りかかってきたので、彼はドギマギしながらも校舎ビルの入口へ案内する。

“パシャン” 最初のシャッターが切られる。「え、もう始まってるの?」青年は煙草を慌てて消そうとする。「あ、そのままで」。彼はレンズを通して青年をまじまじと見つめる。不安そうに落ち着きなく髪や唇を触る癖。詩人から聞いていた通り、すましてるけど子供みたいにかわいい人だな。そう思いながら2枚目のシャッターを切る。

珈琲とマフィンの匂いと混ざり合った甘い煙は、スタジオの大きな窓から差し込む眩しい光に照らされ、真っ白な霧雲のようにふたりをゆっくり包み込んでいく。「そのままカメラを見て」。青年の目線は煙をまっすぐ突き抜けカメラの中に落ちてくる。その瞬間、彼は3枚目のシャッターを切った。

表紙には煙草を持った無防備な眼差しの青年がひとり佇んでいる。詩人は膝上のその詩集に手を重ねながら、ある日の撮影を空想していた。霞の中でふたりの面影が揺れ重なりひとつになっていく。性格、髪や瞳の色、背格好、星座、年齢、宗教、言語、国籍、ニューヨークにいる理由…ふたりは何ひとつ似ているところはなかったけれど、まるで別世界にいる同人、詩人という鏡を通して見つめ合うふたりのように存在していた。詩人は目を閉じたまま、ハイスミスのCarolの一節をひとり呟いた。“本当に不思議なふたり。空から降ってきたみたい”

森栄喜「Letter to My Son」

開催中~12月22日(土)まで、新宿のギャラリー「KEN NAKAHASHI」
(東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)、11時~21時、日・月休廊。
http://kennakahashi.net
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