巽孝之著『パラノイドの帝国 アメリカ文学精神史講義』(大修館書店)刊行記念 異端の時代のパラノイド・スタイル----ホフスタッターを超えて---- 巽孝之×森本あんり トーク&サイン会レポート|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年11月30日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

巽孝之著『パラノイドの帝国 アメリカ文学精神史講義』(大修館書店)刊行記念
異端の時代のパラノイド・スタイル----ホフスタッターを超えて----
巽孝之×森本あんり トーク&サイン会レポート

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第2回
■トランプが文学界に与える影響

森本 あんり氏
続けて森本氏は「巽さんは以前、トランプというあまりにも虚構を作り上げるのが上手な人物が出現したために文学者がお株を奪われてしまった、とおっしゃっていましたが、これは面白い指摘だと思います」と述懐し、巽氏が応答する。「今年亡くなったSFとファンタジーの女王、アーシュラ・K・ル=グウィンをはじめハインラインやアシモフらこそがトランプの言うオルタナティブ・ファクトを書いてきたという批判が出たんですよね。それを読んだル=グウィンは烈火のごとく怒り、自分の作品はオルタナティブ・ヒストリーであって、トランプのオルタナティブ・ファクトはただの嘘である。自分は真実を書いているのだと反論しました。ただ、作家自身が弁明しなくてはならないいささか困った事態になっているのです」と述べ、さらに「ニューヨーク・タイムズの辛口批評家であるミチコ・カクタニがトランプはポストモダン思想を濫用していると論じた『The Death of Truth』を今年出したのですが、批判の矛先がデリダやド・マンにも向けられてしまっているのですね。ここ20~30年の文学理論を支えてきたポストモダニズムもトランプによって窮地に追い込まれている現状なのです」とトランプが文学界に与え続けている現状について語った。

トランプは文学にとって仇なす存在なのか。しかし『パラノイドの帝国』の帯には「トランプがもたらすのは文学の豊穣?」と記されている。この言葉の真意について巽氏は「トランプのような反知性主義的なもの、パラノイド的なものを無視したらアメリカ文学史の主要な部分が消失してしまいます。なぜなら反知性主義とは反権威主義、大学に象徴されるような権威に対して批判的な立場をとり、例えばメルヴィルやマーク・トウェイン、フォークナー、ヴォネガットら、アメリカ文学を代表する作家たちが該当します。反権威的な反骨精神がアメリカ文学にとって重要な要素だといえます。つまりこの帯文には最悪の時代にこそ文学の傑作が出てくるのではないか、という予期が込められているのです」と語った。反知性主義という論点に対して森本氏は「それにエマソンやソローという作家は今となってはほとんどが反知性主義ないしはヒッピー文化を象徴する1つのアイコンだといえますね」と述べた。

『パラノイドの帝国』から読み取れる論点について森本氏はさらに言及する。「文学作品が現実を写しとっているといわれることがままありますが、その解釈は誤っていると思います。現実を写しとっているのではなく、先に形や「象」があってそれがやがて現実になっていくのではないだろうか。実は現実と創作の関係の起承転結がひっくり返っている。たまたま前に言ったことが当たりました、というものではない。物事が本来動くべき方向を現象するのが文学なのだろう、ということが見えてくる、そんな怖さを感じました」と語った。この指摘に対して、トランプという存在はアメリカ人の無意識が望んだひとつの記号であると巽氏は応答した。
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この記事の中でご紹介した本
パラノイドの帝国 アメリカ文学精神史講義/大修館書店
パラノイドの帝国 アメリカ文学精神史講義
著 者:巽 孝之
出版社:大修館書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「パラノイドの帝国 アメリカ文学精神史講義」出版社のホームページはこちら
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