水族館の文化史 ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界 書評|溝井 裕一(勉誠出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年12月1日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

発展過程に焦点を当て
社会との関係を歴史的視点で見る

水族館の文化史 ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界
著 者:溝井 裕一
出版社:勉誠出版
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 水族館の人気は近年ますます高く、テレビやネットで水族館の話題が毎日のように取り上げられている。一昔前はイルカなど人気生物の紹介中心だったが、最近は水族館の舞台裏探検や飼育係の仕事体験などひと工夫した番組がふえている。一方で、飼育管理上の事故や、動物の入手について水族館が批判を受けるケースも出てきた。このように、水族館の取り上げ方は時代によって変わってきている。水族館と社会との関係を歴史的視点で見ようとしたのが本書だ。
内容は5章に分かれ、第1章の「水族館前史」からはじまり、第2章は19世紀半ばのイギリスで誕生した水族館が20世紀初頭までのヨーロッパでどのように発展してきたかを見ていく。第3章では海を越えアメリカと日本に渡った水族館の発展を追い、アメリカで初めて建設された行楽目線のマリンランドに注目しイルカショーの誕生についても触れている。第4章では1960年代以降、水族館に大きな変化をもたらした展示に物語性をもたせる水族館の「テーマ化」や、水族館の「ディズニー化」について解説している。第5章は水族館にたいする批判の高まりとそれに対応する動きを取り上げ、最後にこれからの水族館の進化発展の可能性について述べている。

西洋史を専門とする気鋭の文学部教授が汎世界的な水族館の発展過程に焦点を当て、豊富な資料を読み込み自らも多くの水族館を訪れて一冊の本を著した。資料の引用もとを明示する「注」の数が全体で約750か所、それらの理解を助ける写真や図版が200余り、見応え、読み応え十分である。

著者が前書きで「この本では、すべての話題をわかりやすく解説するとともに、興味深いエピソードをできるだけ多く紹介することにつとめた」というとおり、どの章もその時代背景や社会現象がわかりやすく解説され、この姿勢は十分に果たされている。例えば、1867年のパリ万博で建設された大規模な天井水槽を山高帽の紳士とロングドレスの淑女が見上げている図版を見るだけで楽しくなってくる。また、リスボン・オセアナリウム水族館の外観は大阪海遊館と似ているが、設計者が同じ人物だということを知ると納得する。

少し物足りなく思うのは、ここで取り上げている資料のほとんどが水族館の設立者や設計者の残した記録で、その内容は建物のデザイン、水槽の配置、展示テーマなどが中心であり、水族館の主役である水族に関する記述の少ないことである。著者は「水族館はその性質上、生きものだけでなく水の世界(水界)そのものを展示する。だから、設計者たちは、ただ生きものを見せるだけでなく、非日常の世界を演出することにもこだわってきた」と記述している。しかし、水族館の水界は水族の展示が前提であり、水族展示にも歴史があり、時代と共に新しい生き物が展示可能になってきている。新たな展示動物の人気や評判など展示水族と社会との関係をもっと取り上げてもよかったのではないだろうか。そこには「ひと・動物・モノがおりなす魅力的世界」が隠れているように思う。何はともあれ、水族館に関する薀蓄満載で、少しでも水族館に興味のある人におすすめである。
この記事の中でご紹介した本
水族館の文化史 ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界/勉誠出版
水族館の文化史 ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界
著 者:溝井 裕一
出版社:勉誠出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「水族館の文化史 ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界」出版社のホームページはこちら
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