「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史 書評|下地 ローレンス吉孝(青土社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年12月1日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

「日本人であること」
 その非常識な「常識」に疑問符を投げかける

「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史
著 者:下地 ローレンス吉孝
出版社:青土社
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今年『混血列島論』という著書を刊行したので、戦後の日本列島において混血児、ハーフ、ダブルと呼ばれてきた人びとに関する、このユニークな研究書を食入るようにして読んだ。非常におもしろいのが、本書のバックボーンとなった現代アメリカにおける「人種編成論」である。「人種」という概念を本質的なものと見なすのではなく、かといって幻想として単純に退けるのでもなく、「人びとの「外見」を参照することで歴史的に意味づけられ、ミクロな日常生活やマクロな社会構造にいたるまで影響を与え続けている概念」だと考えるのだ。噛み砕いていえば、その時代における社会の動態のなかで、人種化というプロセスが生成的に起こると見なすことだといえるか。本書はこの人種編成論を使って、日本社会における混血の人たちの近代史をひも解こうとしている。

江戸時代では、それぞれの藩における封建制度が根強く、家制度のなかで人びとは血統の観念によって深く結びつけられていた。明治時代のエリートたちは、近代化のなかで既存の家制度をうまく利用した。天皇家の祖先を信仰の対象とする国家神道をつくり、天皇の名の下に列島に暮らす多種多様なアイデンティティをもつ人たちが、あたかもひとつの家族として一体感をもつかのような「日本人の血」という人種的なメタファーを発明した。だが戦争を続けるなかで、大日本帝国が朝鮮半島、樺太、台湾、ミクロネシア、満州へと植民地を広げていくと、今度は「混合民族論」というイデオロギーが統治を正統化するために使われた。戦前戦中に日本臣民は「内地人」と「外地人」に序列化された上、朝鮮半島では被支配民族を吸収合併するべく、日朝間の結婚が奨励され、混血が推進されたという事例も興味深い。しかし敗戦後はまた、がらりと状況が変わった。

旧植民地から人びとが帰国するなかで、日本政府は「日本人」と「外国人」という国籍上の境界線を策定する必要に迫られる。中国、韓国、台湾などのアジア系との混血を日本人と同化する一方で、駐留米軍を相手とする売春婦、オンリー、自由恋愛においてヨーロッパ系やアフリカ系とのあいだに生まれた、新しい「混血児」の存在が社会的に注目された。著者の母親も米兵と沖縄女性のあいだに生まれた子どもであるそうだ。「混血児」「ハーフ」「ダブル」と呼ばれてきた人びとに光をあてることで、反対に「日本人種=日本民族=日本文化」という方程式が、いかに個々人の意識の深層に組みこまれていったかを本書は検証する。そのときに研究論文として完成するだけでなく、フィールド調査と当事者のインタビューによってあぶりだすところが、本書をオリジナルなものにしている。

戦後は「日本人の血」という概念が自然化するなかで、肌の色や外見など生理的なレベルの分類によって「日本人」という想像上の拡大家族が人種化され、外国人との間に線引きがなされてきた。一方で混血児は例外的な存在とされていった。たとえば七〇年代以降の消費社会では、ハーフブームが到来し、テレビや雑誌などのメディアでハーフの女性芸能人やモデルがもてはやされた。「ハーフ」の概念はジェンダー化・人種化されて、「女性で白人とのハーフ」以外の人たちは一般的なイメージにあてはまらず、不可視化されていった。九〇年代以降は「国際化」や「文化の多様性」が声高に叫ばれるようになるが、むしろそれによって日本人/外国人の二分法が強化され、混血の人たちが住みやすい社会にはなっていない。「日本人種」は存在しない。わたしたちは歴史的にもDNA的にも混血であるのに、言語的にも文化的にも単一の「日本人」であることを信じて疑わない矛盾した存在だ。本書はその非常識な「常識」に疑問符を投げかけている。
この記事の中でご紹介した本
「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史/青土社
「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史
著 者:下地 ローレンス吉孝
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
「「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史」出版社のホームページはこちら
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