地域通貨による コミュニティ・ドック 書評|西部 忠(専修大学出版局 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月1日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

コミュニティ・ドックで地域の健康管理を
地域住民による地域再生の方策

地域通貨による コミュニティ・ドック
著 者:西部 忠
出版社:専修大学出版局
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エーリッヒ・フロムは『正気の社会』(1958)において、20世紀の西欧社会に対して、「自己が正気ではないことにすら気づかないほど病的な状態にある」と社会病理学的診断を下している。それから半世紀経て、21世紀に入った現代社会も、フロムの指摘した社会病理が改善するどころか、規模・質ともに深刻化しているように見える。

本書序章において、現代のグローバル資本主義は、1990年代の日本のバブル崩壊や2008年のリーマンショック、そして2010年の欧州ソブリンショックなど、実体経済から遊離する金融・信用の拡大とその崩壊という形をとり、こうした金融危機を経て、所得・資産格差は増大し、不平等感が社会全体に広がっていると著者は指摘している。

そしてこの市場の失敗を是正する役割が期待される政府は、金融危機の張本人というべき巨大金融機関のみを救済するという事態が白日のもとにさらされ、市場のルールの公正さを保全する役割を果たすどころか、むしろその不公正さを助長する主役であることが一般に知らされたとも述べている。

以上のように、ある意味絶望的とも言える社会状況において、本書はこの現代的社会病理を改善する手法を提示している。それが「コミュニティ・ドック」である。著者は「コミュニティ・ドックとは、総合的な定期検診である人間ドックに相当することを地域コミュニティに対して実施しようというねらいのもと、住民の自己評価を通じて生活現状の改善に導くための総合的かつ内発的な評価手法である」と説明している。

そして本書の目的は、「グローバル資本主義にまつわる諸問題の解決を図るために、当事者による内発的地域発展手法であるコミュニティ・ドックの枠組みを体系化し、地域通貨の実践的な導入・活用のための提言を行うこと」としている。

そのため第1編「コミュニティ・ドックと地域通貨」(第1章、第2章)においてコミュニティ・ドックおよび地域通貨の概念・意義等を説明し、第2編「地域通貨を活用したコミュニティ・ドックの事例研究」(第3章から第6章まで)において、著者が中心的役割を果たした国内3つの地域におけるコミュニティ・ドック活動と、海外で最も成功した事例の一つとしてブラジルのフォルタレザ市にあるパルマス銀行の試みを紹介している。そして終章においてコミュニティ・ドックの今後の課題をまとめている。

内容も少し紹介しよう。第3章ではコミュニティ・ドックの源流としての北海道苫前町における地域通貨流通実験を紹介している。そこでは、苫前町の人口動態など実験の背景や経緯などを確認した後、地域通貨流通の仕組みや組織などについて、豊富な図表を使用し詳細に説明している。その中では、地域通貨の流通ネットワーク分析までなされており、地域活性化に関する活動を志す読者だけでなく、この分野の研究者にとっても参考になる内容が記されている。

第5章で紹介されるパルマス銀行は、1998年から、消費者及び生産者向けマイクロクレジット(少額融資)を地域通貨で行うという先進的な取り組みをしており、この取り組みの結果、1997年の地域内での生活必需品の購入割合が2割であったものを、2008年には9割以上に増やすことに成功している。

本書において、著者は「コミュニティ・ドックは人間ドックに似ているとはいえ、西洋医学よりも東洋医学により近い」と述べている。この点、従来型の政府組織など外部からの対処に頼るのではなく、地域内部から発生する活力こそ地域再生の鍵であることを意味し、その具体的方策を本書は示している。

通貨は人類最大の発明の一つともいわれるが、近年の仮想通貨の出現など、その進化は続いている。グローバル・マネーとして生まれた仮想通貨と、ある意味対極にある地域通貨の融合ともいえる「仮想地域通貨」も出現している。社会を混乱もさせるが、幸福に導くこともできる「良貨」としての通貨の今後の可能性を感じさせてくれる著作である。
この記事の中でご紹介した本
地域通貨による コミュニティ・ドック/専修大学出版局
地域通貨による コミュニティ・ドック
著 者:西部 忠
出版社:専修大学出版局
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