日本写真史1945-2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性 書評|レーナ フリッチュ(青幻舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年12月1日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

表現の多様性を切り出す
歴史記述と個人の証言を巧みに配合

日本写真史1945-2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性
著 者:レーナ フリッチュ
出版社:青幻舎
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イギリス在住のキュレイターによる日本写真史の邦訳、と聞けば、日本の写真表現が他国でどのように受け入れられているのか、「他者」からの評価におのずと期待が高まる。オリエンタリズムの視線や言及作家の偏りは避けられないかと危惧したが、それは杞憂に終わった。いざ蓋を開けてみれば、そこには極めてオーセンティックな表現史が構築されていたのだ。

敗戦後の日本人の生活を傷跡も含めて伝える木村伊兵衛や土門拳のリアリズム写真にはじまり、1960年代の熱気のなかで光、質感、印刷技術の常識に挑戦した森山大道ら「プロヴォーク」の活動、蜷川実花らを輩出した1990年代の「ガーリーフォト」ブーム、現代美術家によるコンセプチュアルな写真表現、さらには3・11以後の最新動向まで。主要な潮流を手堅く押さえた構成で、シンプルな章立てゆえに写真表現の変遷がつかみやすい。何よりもまず作品を知りたい読者にとっては、参考図版の豊富さと写真が映える大判のつくりも嬉しいだろう。「読ませる」だけでなく「見せる」概説書といった体裁には、おそらく著者のキュレイターとしての手腕が発揮されている。読後には、よくつくりこまれた一本の展覧会を見たような充実感が得られるのだ。

欲を言えばせっかく戦後の動向に焦点を絞っているのだから、その意図を際立たせるためにも、政治・文化状況を含む時代背景についての解説が多めにほしかった。だがこれは、著者の狙いを見誤った見当はずれな要求に過ぎないかもしれない。本書の最大の特色は、日本を代表する25名の写真家へのインタビューを収録したことである。川田喜久治、細江英公、荒木経惟、須田一政、長島有里枝、畠山直哉、川内倫子、鷹野隆大。ラインナップの一部からだけでも作家の網羅性の高さがわかるはずだ。しかもインタビューはいずれも2016~2017年のあいだに行われた最新版である。

写真をはじめたきっかけ、代表作にまつわるエピソード、写真のどのような点が好きか。歴史に名を刻んだ大家もこれからの写真界の一翼を担う中堅も、写真に向った私的な動機や内的必然性を肩肘張らずに語っている。いわばこれらのインタビューは、大文字の歴史ならぬ小文字の歴史を読み解くための貴重な証言集なのだ。オーソドックスな編年体に拠りながら、「個」の表現の深度にも目を向けさせる工夫が本書には仕込まれている。

やや気になったのは現代写真を取り上げた最終章。「都市・風景・屋内」「静物」「人」という主題別の紹介になったことにより、それぞれの作品がもつはずの多彩な文脈がやや類型化されてしまった。見方を変えればこれは、表現の多様性に史的考察がまだ追いついていないことの証左である。近過去の扱いの難しさは普遍的な問題であり、後続の言説によって整理されていくものと期待される。

歴史記述と個人の証言を巧みに配合させた本書は、表現の多様性を切り出すことに成功した。散りばめられた「個」の活動から歴史の伏線をいかに読み解くかは、読者の力量にも掛かっている。
この記事の中でご紹介した本
日本写真史1945-2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性/青幻舎
日本写真史1945-2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性
著 者:レーナ フリッチュ
出版社:青幻舎
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本写真史1945-2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性」出版社のホームページはこちら
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