変身 書評|フランツ・カフカ(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2018年12月1日 / 新聞掲載日:2018年11月30日(第3267号)

カフカ著 『変身』
筑波大学 安藤由佳

変身
著 者:フランツ・カフカ
出版社:新潮社
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変身(フランツ・カフカ)新潮社
変身
フランツ・カフカ
新潮社
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「ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変っているのを発見した。」

本書はこの奇怪な一文から始まる。グレーゴルは外交販売員であった。会社への借金を返すため、そして大黒柱として家族を支えるために、彼は毎日毎日身を粉にして働く必要があったのだ。そんなある日、グレーゴルは自身が虫に変身してしまっていることに気が付いた。

家族は、虫になった彼を発見すると、驚き、嘆いた。そして次には醜い姿となった彼を恐れ、部屋へ追い立ててしまった。

最初は家族たちもグレーゴルを憐れみ、恐る恐るではあるが、世話を焼き、特に妹は毎日、今や虫の味覚となった兄の好みを推し量りながら食べ物を運んだ。

しかし、段々と家族は、グレーゴルのことを厄介者として扱うようになっていく。生活苦もその要因の一つだった。一家の大黒柱が虫となり、働けなくなってしまった今、彼らは自ら生活費を稼ぐ必要があった。老いた両親とまだ若き妹にとって、それは苦痛であった。

彼らの忍耐も限界であったある日、父親はグレーゴルを追い回し、林檎を投げつけた。その内の一つがグレーゴルの背中にめりこみ、彼は重傷を負ってしまう。そして彼は家族にも見離され、一人寂しく部屋で死んだ。彼の死後、家族は安堵し、日常を取り戻した。電車で睦まじく外出し、両親は美しく成長した娘の将来に胸を膨らませる、そんな「普通」の日常に。

人が虫に変身する。そんなことは現実では有り得ない。しかし私は、本書は超自然的な内容を描いたフィクションに留まらず、現代社会の問題を風刺する作品のように思う。

自身を犠牲にしながらも働くグレーゴルの人物像は、日々目まぐるしく動く社会の中で生きる、現代人の姿を連想させる。そう考えると、虫に変身した彼の姿は、仕事へのノイローゼで働けなくなった社会人や、登校拒否で部屋に閉じこもった子供たちの姿に通ずるのではないか。

グレーゴルの家族たちは、彼を恐れ、次第に厄介者扱いした。これは現代の、社会に出ることが苦痛となってしまった人々と、その家族が抱えている問題を含んでいると言っても過言ではない。

ある日、自分の家族の一員が社会から外れてしまったとしたら、残りの家族はどうすべきなのだろう。これは現代の課題の一つだ。今の社会は加速度的に流動性を高め、益々スピードを上げている。その社会から逃げ出したいと思っている人たちを最終的に受け止めるのは家族の役目だ。

私たちは、「異質なもの」になったグレーゴルを除け者にしたことで、彼を殺してしまった彼の家族と同じ結末を辿ってはならないのだ。

ザムザ家を反面教師に、私たちは今一度家族の在り方、そして社会の在り方を再考しなくてはならない。
(高橋義孝訳)
この記事の中でご紹介した本
変身/新潮社
変身
著 者:フランツ・カフカ
出版社:新潮社
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