情報社会の〈哲学〉 グーグル・ビッグデータ・人工知能 書評|大黒 岳彦(勁草書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年11月11日 / 新聞掲載日:2016年11月11日(第3164号)

情報社会の〈哲学〉 グーグル・ビッグデータ・人工知能 書評
透徹した分析と観察 不可視のメディア生態系の存立条件を暴きだす

情報社会の〈哲学〉 グーグル・ビッグデータ・人工知能
出版社:勁草書房
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ネット、SNS、ビッグデータ、人工知能、ロボット、ドローン……情報技術とメディア技術の発展はとどまるところを知らない。これらが我々の社会と生活を大きく変えつつあることを誰もが感じているのだろう、各種媒体はそうしたテクノロジーに関するニュースや記事であふれている。

提供される情報の多くは表層的な時事評論や扇情的な未来予測の類いであったり、場合によっては商品やサーヴィスの宣伝まがいのマーケティング記事であったりする。事態の見通しがたさを思えば仕方ないことなのかもしれない。しかし、ここらでもっと原理的かつ大局的な観点から社会を見通す足場がほしい。そして、もし我々の社会が根本的な変化をこうむりつつあるとするならば、その変化を根本的なレヴェルから理解したい。私などは素人なりにそんな風に思う。

本書はその足場となりうる作品である。最大の魅力は、我々が「情報社会」と呼ぶこの複雑な社会の存立条件を、考えられるかぎりもっとも原理的かつ包括的なしかたで解明しようとする点にある。

本書のスタンスは明快である。ともすれば我々は副題にあるような「グーグル」「ビッグデータ」「人工知能」といった個々の社名や技術に振り回されがちだが、本書の目標はそうした現象の分析そのものにはない。これらを導きの糸として、最終的にはその基底で働いている不可視のメディア生態系――情報社会の本体――の存立条件を暴きだそうとするのである。その意味で本書は書名にあるとおり情報社会の「哲学」を、またマルクスが言う意味での「体系的批判」を目指している。

著者は、ニクラス・ルーマンの社会システム論とマーシャル・マクルーハンのメディア史観を補完的に組み合わせることで事に臨む。ルーマンの社会システム論とは、社会を人間や人間的行為の総和としてではなく非人称的なコミュニケーションの連鎖的持続としてとらえる見方である。その高い抽象性からときに敬遠されたりもする理論だが、しかし著者によればそれこそが求められる当のものである。極度に抽象化されたコミュニケーションを特徴とする情報社会の理論的把握のためには、ルーマンの社会システム論の抽象性が不可欠なのである。また、マクルーハンのメディア史観とは、人類の歴史を主導的メディア(声、文字、活字、テレビ)が形作ってきたメディア生態系の変遷の歴史とする見方である。著者はマクルーハンの主張がもっていた時代的・宗教的制約によるバイアスを修整しながら、これを社会システム論に接続するのである。それによって通時的また共時的に非常に汎用性の高い見立てが可能になった。

乱暴にまとめると、おおよそ次のようになるだろう。現代の情報社会は、諸メディアが構成する閉じたシステムである。そこで主導的な役割を演じるのはネットワークメディア(インターネット)であり、これが既存のあらゆるメディアを組み込みながら、高度に抽象的な非人称的コミュニケーションを生みだすメディア生態系となりつつある。いま我々が目撃しているのは、「声」「文字」「活字」「マスメディア」に次ぐ「ネットワークメディア」の生態系の出現という事態なのである。

こうした「学知」による透徹した分析と観察が本書最大の魅力である。だが、その結果としてもうひとつ、本書がもたらすであろう効果も見逃すことはできない。それは、我々を右往左往させる諸現象(SNS、ビッグデータ、人工知能、ロボット、等々)にまとわりついている無用な幻想、願望、恐怖の類いを一掃する悪魔祓いの効果である。テクノロジーの驚異的発展を目の当たりにして、我々の目は薔薇色か暗黒かという極端な方向に偏りがちになる。そんなときに必要となるのが冷静な観察者である。本書はまさにそうした役割をになう一書である。
この記事の中でご紹介した本
情報社会の〈哲学〉   グーグル・ビッグデータ・人工知能/勁草書房
情報社会の〈哲学〉 グーグル・ビッグデータ・人工知能
著 者:大黒 岳彦
出版社:勁草書房
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