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”Letter to my son"
更新日:2018年12月11日 / 新聞掲載日:2018年12月7日(第3268号)

Letter to my son(20)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI

2001年、クリスマスを間近に控えたマンハッタン、チャイナタウン。街から響き届くいつも通りの騒がしさに安心する。煙草を吸いながら、届いたばかりの詩集を3冊だけ段ボールから出し、キッチンテーブルの上に置いた。そのまましばらく表紙を眺める。表紙の青年も煙草を持ちながら無防備な眼差しでこちらを見つめている。微笑もうとしても無理だった。ため息をつくかわりに、彼にそっと煙を吹きかける。

青年と初めて出会った日から毎日のように書き綴り完成させた詩集。まるで、切手を貼らない恋文、引き出しの奥にひっそりしまわれた日記帳、しばらく経ってから発見される遺書、、、それらの中の告白のように、自分でも驚くほどに素直に書かれた彼への愛情の記録だ。

道路も地下鉄も電話も止まり、きな臭い風がマンハッタン中を覆った9月11日。ここも居住者以外は立入禁止区域になった。もうあれから3ヶ月も経つというのに、真っ青な空に墨汁を落とすように黒煙が止むことなく上がり続けている。あのふたつのタワーが消えた日以来、青年との連絡も忽然と途絶えた。


すぐに失くしてしまった誕生日プレゼントのMOSCOTのサングラス、来年も同じものをプレゼントする。Princess Mononokeを観に行く。ベルリンへ旅行する。なにげない会話の中で交わされた、ひとつひとつの小さな約束。守られたり、守られなかったり、覚えていたり、忘れたり、優しさからの偽りだったり。そんなこととは関係なく、たくさんの約束は次第に連なり始め、うねりながら加速し記憶の物語になる。

いつの日かのHANAMI。セントラルパークのボウ・ブリッジ上で、眼下の湖を眺めるふたり。頬杖をつく彼の肩にそっと手を落とす。「ボートに乗ろう」。「え、恥ずかしいよ」。「じゃあシーズンオフに乗りに来よう」。「いいよ」。ささやかな約束たちは詩の中で生き続けている。

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