絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ 書評|M・R・オコナー(ダイヤモンド社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 社会・政治
  5. 絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ 書評|M・R・オコナー(ダイヤモンド社)
読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年12月8日 / 新聞掲載日:2018年12月7日(第3268号)

6度目の大絶滅時代に生きて
自然保護のターニングポイントを読み解く

絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ
著 者:M・R・オコナー
翻訳者:大下 英津子
出版社:ダイヤモンド社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 種はいつかは絶滅する。今から4億4000万年ほど前のオルドビス紀末に起こった1度目の大絶滅から、6550万年前の白亜紀末の恐竜の絶滅まで、5回の大絶滅があったことがわかっている。

そして、今は6度目の大絶滅のさなかではないかと考える生物学者は多い。ジャーナリストのオコナーは、子供の頃に聞いた、1時間に種が3つ消滅しているという話に驚愕した。ここから物語は始まる。

誰もが、絶滅は良くないことであり、絶滅から種を救うのは良いことだと思うだろう。果たしてほんとうにそうなのだろうか。

この疑問の答えを探しに著者は、世界の絶滅動物の取材の旅に出る。本書は、現地での取材と多くの専門家たちへのインタビューをもとにして、種を守ろうとする生物学者たちの苦闘と課題を描いたノンフィクションである。

そして、この旅の結果、得られた結論は何か? それは、私たちの常識とはかけ離れたものだった。

本書は、8章に分かれており、それぞれの章で一つの絶滅種をとりあげている。1章で紹介されているのは、タンザニアの熱帯雨林の滝つぼに住んでいたキハンシヒキガエルだ。この小さな黄色いカエルは上流に水力発電のダムができたため環境が激変し、絶滅してしまった。今は生き残ったわずかな数の個体が、アメリカの二つの動物園の人工的な飼育環境で、かろうじて生きながらえている。しかし、この人工的な環境から出て、元のすみかに戻しても自力で生きていくことはできないだろう。もう、住んでいたときと同じ環境は取り戻せないからだ。

キハンシヒキガエル絶滅の原因は、ダム建設による環境の変化だが、一方、人間の側からすると、タンザニアの貧弱な電力事情を改善するには水力発電所が欠かせなかった。ダムによって現地の人々の暮らしが豊かになる。

はたして、人間の生活を犠牲にしてまでカエルを守る必要があるのだろうか。また、動物園の人工的環境の中で育てても、自然に戻ることはできない。人間が保護という手を加えたことで、ますます自然に戻れない状態になってしまっているのだ。

こういう形で絶滅種を保護する意味がどれほどあるのだろうか、と著者は問いかける。種を守ることは、生物学者にとっては大切なことかもしれないが、社会的・倫理的にはどうなのだろうか。飼育にはコストもかかる。

著者は、このような疑問に続いて、人間の手が入った状態でないと生きられない生物は、いっそのこと絶滅していいのではないか、という思いに駆られる。

本書には、キハンシヒキガエルの他、人間の手で別の種と交雑させられ、かろうじて生き延びているフロリダパンサー、19世紀の後半までは50億羽もいたといわれるが、食糧や羽毛をとるために乱獲し絶滅してしまったアメリカのリョコウバトをはじめ、ホワイトサンズ・パプフィッシュ、タイセイヨウセミクジラ、ハワイガラス、キタシロサイ、ネアンデルタール人がとりあげられている。

本書は自然保護とは何か、種の保存とは何か、ということを深く考えさせてくれる。滅びゆくものは、そのままでいいという選択肢もあるのではないかと。

科学技術の発達は、遺伝子操作やクローンの作成まで可能になっている。しかし、絶滅種は、そこまでやって守るべきものなのかどうか。自然保護の思想は、今新しい段階に入っている。自然保護、さらには環境哲学のターニングポイントを迎えている今、ぜひ本書を読んでさまざまに思考をめぐらせておきたいものだ。
この記事の中でご紹介した本
絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ/ダイヤモンド社
絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ
著 者:M・R・オコナー
翻訳者:大下 英津子
出版社:ダイヤモンド社
以下のオンライン書店でご購入できます
「絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
白鳥 敬 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治関連記事
社会・政治の関連記事をもっと見る >