西部劇と不透明性 執筆に五年をかけた労作|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月15日 / 新聞掲載日:2018年12月14日(第3269号)

西部劇と不透明性
執筆に五年をかけた労作

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 吉田広明の『西部劇論 その誕生から終焉まで』(作品社)は執筆に五年をかけた五百頁を超える労作で、相当な読み応えがある。

西部劇の歴史が九章立てで考察される。順に見てみよう。第一章「初期西部劇」では、ジョン・フォードやウィリアム・S・ハートなどによるサイレント期の西部劇が論じられる。西部劇という映画のジャンルの形成において、オーウェン・ウィスターの西部小説『ヴァージニアン』が重要な役割を果たしたことが重視され、詳述される。第二章「古典的西部劇」では、戦前のトーキーの西部劇が論じられる。本来ならば、このジャンルは一九三〇年代に古典的な名作を量産し、全盛期を迎える筈だった。だが、この時期に西部劇は冷遇され、それ故、古典的西部劇は思いがけない低調さを特徴とすることになる。そんななかで、古典的西部劇の典型と言える傑作があるとすれば、それはフォードの『駅馬車』以外にあり得ない。章の副題にハサウェイの名が挙げられているが、この章では一切言及されていない。第三章「西部劇を変えた男」では、ウィリアム・A・ウェルマンに焦点が当てられる。なかでも重視されるのは、四〇年代前半に撮られた修正主義的西部劇の遥かな先駆『牛泥棒』だ。第四章「フィルム・ノワール=西部劇」では、四〇年代後半と五〇年代の西部劇がノワール西部劇と命名されたうえで、その性格が分析される。ギャング映画がフィルム・ノワールに取って代わられたように、古典的西部劇はノワール西部劇に変質したというのが、著者の主張だ。作品としては、ラオール・ウォルシュやアンソニー・マンなどの監督作が分析される。第五章「神話と化す西部劇」では、同じ時期のフォードやニコラス・レイの作品が取り上げられ、西部劇の変質が別の観点から論じられる。西部劇がジャンルとして「自意識を持ち、自らの根拠を問い直す」(二一二頁)ようになり、そのなかでレイは西部劇に「西部劇への深甚な批判」(同頁)を持ち込んだと、著者は主張する。第六章「不透明と透明の葛藤」では、五〇年代と六〇年代の西部劇における不透明性のさらなる変化と透明性の揺り戻しが検討される。西部劇の不透明性がノワールの暗い混濁から歴史を問い直す修正主義的傾向へと変容する一方で、バッド・ベティカーはジャンルに透明性を再導入し、さらにハワード・ホークスが象徴の重みのない純粋な活劇により透明性の極みを提示したのだ。第七章「西部劇の黄昏」では、六〇年代と七〇年代をジャンルの衰退期と捉えた上で、サム・ペキンパーの作品が他の監督の作品と比較される。「ペキンパーは西部劇の不可能性の時代にあって、そのありうる姿を彼なりに模索しつくした」(三一三頁)と、著者は結論する。第八章「オルタナティヴ西部劇」では、同じ時期に現れた西部劇の新たな傾向が分析される。中心となるのは修正主義的西部劇で、このサブジャンルはエイブラハム・ポロンスキーやロバート・アルドリッチなどの作品によって西部劇の延命をもたらした。第九章「西部劇に引導を渡した男」では、クリント・イーストウッドが論じられる。彼は七〇年代に監督業に乗り出し、古典性と修正主義的性格の両面を備えた西部劇を撮り続ける。「そのすべてが西部劇そのものの埋葬の儀式」(四〇四頁)であり、特に九〇年代初めの『許されざる者』がジャンルの歴史を終わらせたと、筆者は主張する。

吉田広明の議論の根底には、西部劇の透明性と不透明性に関して明確に後者を尊重するという姿勢がある。純粋な活劇としてではなく倫理の探究としての西部劇が重視される。戦前の古典的西部劇ではなく戦後のノワール西部劇こそが「正当な西部劇」(一五六頁)であるという主張も、イーストウッドが西部劇に終止符を打ったという主張も、この姿勢を前提とするものだ。書物に刻み込まれた情熱と努力に触れることで、人はこの偉大なジャンルについて多くのことを考えるだろう。
この記事の中でご紹介した本
西部劇論 その誕生から終焉まで/作品社
西部劇論 その誕生から終焉まで
著 者:吉田 広明
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
「西部劇論 その誕生から終焉まで」出版社のホームページはこちら
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