大名庭園の近代 書評|小野 芳朗(思文閣出版 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年12月15日 / 新聞掲載日:2018年12月14日(第3269号)

都市と庭園、庭園という遺産
大名庭園」はいかに価値づけられ継承されていったか

大名庭園の近代
著 者:小野 芳朗、本康 宏史、三宅 拓也
出版社:思文閣出版
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土地に刻まれた歴史文化遺産を語る際、その創出時に思いを馳せ、技術的ないし芸術的観点や当時の社会状況に照らした機能的観点からその価値を語ることは多い。しかし一方で、本来の機能を喪失してから長きに渡り何故その場所に在り続けてきたのか、すなわち「遺産」となった継承のプロセスに思いを馳せることは希である。本書はこの後者の視座に立ち、江戸時代に造られた大名庭園という存在が、近代においていかに価値づけられ継承されていったのか、丹念な事例研究を行った成果である。
本書が対象としている「大名庭園」は、広義には江戸時代に一万石以上を給されていた大名が江戸と国元に造った庭園であり、狭義にはその多くに共通してみられる広大な池を中心とした回遊式の様態を持つ庭園を指す。大名が国元で造った庭園で現在に残っているものは、近代以降、地方の主要都市として城下町が変貌・発展していくなかで「公園」として都市に開かれた経緯をもつものが多い。このことは、大名庭園が、常にその周辺に広がる都市との相互関係のなかで、都市における価値と機能を更新しながら生きのびてきたことを意味している。本書では、このような都市との関係性を読み解くための切り口を数多く提示している。旧藩の記憶と表彰、文明開化の窓口、殖産興業の拠点、天皇行幸、戦勝祈願、都市計画法、史蹟名勝天然紀念物保存法、観光ブーム等々、著者があとがきで改めて整理しているが、具体の分析・考察内容はもちろん、このような切り口の豊かさを見出している点もまた、本書の優れた研究成果のひとつといえよう。
さらに事例分析の具体的方法も、各々の庭園の特性に照らした多様性に満ちている。例えば岡山後楽園では、現在の特徴的な芝生景観の前身として水田が園内にいかに広がっていたか、その実態と設計意図を、史料のみならず塩水遡上の測定による淡水導水の検証により解明している。また、近代に入り岡山県下で最初に「公園」となった東山の地と対比させることで、都市化のなかで後楽園に付与されてきた価値と機能を浮き彫りにしている。金沢兼六園では、その場所に対するイメージを端的に示す「呼称」や、園内に聳える象徴的なモニュメントに焦点を当てることで、これらに表象されている人々の思いを丁寧に読み解いている。水戸偕楽園では、現在も観梅期に多くの観光客を乗せて走る鉄道の存在を軸に、観光の創出のなかで偕楽園がいかに発見され価値づけられ、周辺に波及していったかを解明している。高松栗林公園では、近代における大規模な改修の中心となった博物館建設に焦点を当ててその背景を読み解き、さらに市内交通の発展による観光ネットワークのなかで相対的に本園の位置づけを浮き彫りにしている。斯様な視角の柔軟性は、歴史的庭園に対する固定観念を解体させ、今につながる都市空間の一片としての意味に気づかせてくれる。今後、さらなる事例研究の蓄積とその体系化が待たれるところである。
さて、本書では、各々の庭園の価値を語ってきた学識経験者、特に造園学者の言説がしばしば挙げられている。そのなかには、語りの根拠が乏しい言説も多く、本書ではこの点に対しても冷静なまなざしを注ぎ、学識経験者の責任の重さを問うている。しかし見方を変えれば、これらの言説は、庭園の美を語り、人々に伝えることを主目的とした言葉の集積であろう。無論、目的が何であれ発言には責任がともなう。ただ、本書のような都市空間の切片としての多面的な履歴の解明と同時に、土地に刻まれた総合芸術を人がどのように愛で、楽しみ、受け継いできたのか(造園学者の数多の言説もまたこの過程である)という問いへの探求、この両面からのアプローチが、庭園という特殊な歴史文化遺産の理解につながるのではないか。本書は、造園学者のはしくれとして、自らを省みる契機ともなった。
この記事の中でご紹介した本
大名庭園の近代/思文閣出版
大名庭園の近代
著 者:小野 芳朗、本康 宏史、三宅 拓也
出版社:思文閣出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「大名庭園の近代」出版社のホームページはこちら
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