Matt 書評|岩城 けい(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2018年12月15日 / 新聞掲載日:2018年12月14日(第3269号)

ひりひりするような感覚
自分は何者でどこへ向かおうとしているのか

Matt
著 者:岩城 けい
出版社:集英社
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Matt(岩城 けい)集英社
Matt
岩城 けい
集英社
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父親と二人でオーストラリアに暮らす安藤真人(まさと)は、現地の名門校ワトソン・カレッジの十年生(十六歳)。十二歳の時に父親の転勤で日本からやってきた。当初は言葉もわからず、現地の公立小学校に馴染めずに苦労した真人だったが、今は言葉の壁も乗り越えて、ハイスクールではMatt(マット・A)と呼ばれるなかなかの人気者だ。親しい友人もできた。成績も数学は飛び級するほど優秀。演劇の授業には、才能を発揮してとことん打ちこんでいる。

そんな真人の、一見順調な学校生活に影がさしたのは、同じMattという名の転校生、マシュー・ウッドフォード(マット・W)が現れてからだった。マシューはことあるごとに真人に絡み、突っかかってくる。

本作は、2015年に刊行された『Masato』の続編である。前作は父親の転勤に伴ってオーストラリアで暮らすことになった真人が、新しい環境のなかで言葉の壁にぶつかりながらも、なんとか「自分の居場所」を見つけていく物語だった。現地の暮らしに馴染もうとしない母親との葛藤や、素晴らしい教師との出会い、オーストラリアの自由な学校生活が生き生きと描かれ、日本に帰国しないことを自らの意思で選んだ真人の成長ぶりがすがすがしかった。

その真人に理解を示し、自身もオーストラリアに残って新しい仕事を始める選択をした父親が、本作では早くも挫折して酒浸りになっている。当然真人は父親と衝突する。経済的にも苦しい。ハイスクールの十年生は義務教育の最終学年だから、進路も考えなければならない。親しい仲間たちにもそれぞれ悩みがある。それでも真人はさまざまな生活上の問題をやり過ごし、学校生活を楽しんでいたはずだった。留学生も少なくないこの学校で、周囲に溶けこんでいる自信もあった。それがマット・Wの出現で、ぐらぐらと崩れていく。

真人を「ジャップ」とののしり、日本人だから許せないとくり返すマシューを最初は相手にしない真人だったが、ダーウィンでの日本軍の奇襲攻撃の事実を知るうちに、実は自分は周りから「あいつ調子に乗ってるよな、ジャップのくせに」と見られていたのではないか、という疑心暗鬼に陥ってしまう。自信もプライドも傷つき、真人は日本人の外見をした自分を嫌悪する。ガールフレンドともうまくいかなくなる。日本人であることを過剰に意識して、自分をがんじがらめにしてしまう。

物語はいまどきの若者言葉で語られ、軽快なタッチで進む。だが軽いノリの小説ではない。異文化に溶けこみながらも「日本人」である自分はどう生きるのか、真人はこれからも悩み考えながら成長していくのだろう。

日本にいれば、日本人であることをことさら意識して暮らすことはない。だが自分は何者で、どこへ向かおうとしているのかという問いかけは、若者に共通のものだろう。若者をとうに過ぎた読者にも、このひりひりするような感覚はなつかしいに違いない。

ダメ男の典型のように描かれる父親とも、真人はいつか理解し合っていけそうだ。悩み抜いて、ぶつかって、光が見えてくる。真人が今後どのような道を歩んでいくのか、その成長が楽しみだ。
この記事の中でご紹介した本
Matt/集英社
Matt
著 者:岩城 けい
出版社:集英社
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