東西ベルリン動物園大戦争 書評|ヤン・モーンハウプト(CCCメディアハウス )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月15日 / 新聞掲載日:2018年12月14日(第3269号)

東西ベルリン動物園大戦争 書評
「動物園人」たちのビビットな生きざま
戦争や時代に翻弄された状況を描いた無類の記録

東西ベルリン動物園大戦争
著 者:ヤン・モーンハウプト
監修者:黒鳥 英俊
出版社:CCCメディアハウス
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 第二次大戦末期から冷戦を通じての血なまぐさい時期に、東西ドイツの動物園に君臨した、あまりにもキャラクターの濃い園長や飼育員の群像劇である。連合国の空襲で外に投げ飛ばされて凍死したワニの肉が飼育員の食料になったり、社会主義の東側から西側に逃亡した飼育員のもとに秘密警察が訪れ、あわや東に連れ戻されて独房に監禁されかけるような、そんな時代である。

本書には、動物園の拡張や新規な動物の獲得に人生をかける「動物園人」たちのビビッドな生きざまが、まるで見ていたかのようにいきいきと描かれている。ある園長は、ヨーロッパを流れるライン川に突如現れたシロイルカを捕えて自園で展示するために、みずから船で疾走する。ある園長は、自尊心の強い市長を味方につけておくため、市長の来園日に、歓迎要員の小学生のサクラを園内に仕込んでおく。

こうした強烈な園長たちの権力闘争が、本書の主題である。特に、ドイツの東西分離を背景に、同じベルリン市内にできたふたつの動物園をめぐる物語が中心となる。連合国が占領した西側には、19世紀に開園した歴史ある動物園があり、第二次大戦で負った大きなダメージを大股に回復していく。ソ連が占領した東側には、社会主義国の威信をかけて、広大な土地と国家予算をもとにした新たな動物園ができあがっていく。

ベルリン東西ふたつの動物園の最盛期の園長は、いかに珍しい動物を集め、敷地や展示施設を拡張・革新し、入園者を獲得するかを、自己実現の手段としているふしがある。目的が同じならば他の園と協力するが、対立した場合、政治家や市民を手玉にとって、ひたすら自園の利益を追い求める。しかしそうした競合の結末として、登場する園長たちの退職時にはいずれも、ライバル園長や監査役会から、とどめを刺されるかのように職や住居を剥奪され、追い落とされていく。

動物や動物園のことを何も知らないお偉方のばかげた意思決定にも、動物園は翻弄される。西ベルリンの動物園を戦後の荒廃から再建し、専門家からも高く評価され、他の園長にはないバランス感覚をもっていた女性の園長は、ただ女性であるというだけの理由で、監査役会から度重なるハラスメントを受け、最後には罷免される。ベルリンの壁成立以降も、ドイツ東西の動物園の動物学者や獣医は、全ドイツ動物園連盟を通じて学術的な交流を保ち続けていたが、国からの圧力のため、東ドイツの会員は脱退を余儀なくされる。

そうしたさまざまな圧力と渡りあってきた園長たちは、大変な実務家であるとともに、もちろん動物の専門家でもある。園長の職を引き継ぐ際、人気者のキリンが肺炎にかかっており先は長くないことをひと目で理解し、非難を避けるため、前任者の任期中に亡くなることを願ったりする。しかし凄腕の園長たちも、動物園という自身のフィールドを離れると、とたんに頼りない。家庭を顧みず仕事に打ち込み、子供たちには猛反発されながらも、自分の頭のなかでは園長職を我が子に引き継がせる夢を抱く。妻の急死にあっても、仕事に没頭するしか、心の痛みを和らげるすべを知らない。滑稽を通り越して哀れですらある。

本書は、近現代のドイツという限定的な状況のノンフィクションでありながら、動物園が、戦争や時代に翻弄され、真に動物の保全や福祉を重視するようになる現代より昔の状況を描きだした、無類の記録である。(赤坂桃子訳)
この記事の中でご紹介した本
東西ベルリン動物園大戦争/CCCメディアハウス
東西ベルリン動物園大戦争
著 者:ヤン・モーンハウプト
監修者:黒鳥 英俊
出版社:CCCメディアハウス
以下のオンライン書店でご購入できます
「東西ベルリン動物園大戦争」出版社のホームページはこちら
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