第三回 須賀敦子翻訳賞 授賞式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月14日 / 新聞掲載日:2018年12月14日(第3269号)

第三回 須賀敦子翻訳賞 授賞式開催

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上村 忠男氏
12月7日、イタリア文化会館で「第三回須賀敦子翻訳賞」の授賞式が行われた。今回受賞の栄誉に輝いたのはジョルジョ・アガンベン『哲学とはなにか』(みすず書房、2017)を翻訳した東京外国語大学名誉教授の上村忠男氏。式では上村氏への贈賞ならびに選考委員講評、上村氏によるスピーチ、受賞者を囲んでの懇親会が行われた。

まず選考委員長を務める東京外国語大学名誉教授の和田忠彦氏が総評を述べた。和田氏は、前2回の受賞作が小説作品であり、賞に須賀敦子の名を冠していることによって文学に限られた賞であるという印象を与えてきたが、第3回にしてはじめて思想書が選考委員の総意で選ばれたことが今回の特筆すべき点だと述べ、改めて本賞選考の際に設けている基準を説明した。「本賞では訳文の質としての日本語の出来映え、作品自体の価値と翻訳紹介の意義、訳者による原作に関する綿密かつ緻密な調査の3点に注目していて、けっして文学作品以外の訳業をあらかじめ排除していません。したがって今回の選考結果はその点を明らかにできたという意味も有しています」と述べた。

続けて上村氏が受賞した意義について、「今回の受賞作のみにとどまらず、とりわけ東京外国語大学を退かれて以降、ますます精力的に研究と思索を展開しているヴィーコ、グラムシ、アガンベン、カッチャーリ、カルロ・ギンズブルグらイタリアの哲学全般に関わる思想家たちの著作と営為をめぐる翻訳と著作、そのすべてに対する選考委員一同よりの敬意の表明でもあります」と上村氏に賛辞を贈った。最後に今回の選考において、最終候補に少なからぬ文学作品の訳書が挙がっていたにもかかわらず、それらの訳者に対し今後のイタリア語翻訳の担い手としての期待が選考委員各氏から表明されることはなかった事態に懸念を表しながらも、イタリア語翻訳界の奮起と活性化を願いつつ講評をまとめた。

講評ののち、上村氏にイタリア文化会館館長パオロ・カルヴェッティ氏から受賞の記念品が贈られ、続けて上村氏による受賞スピーチに移る。

上村氏はまず自身とジョルジョ・アガンベンの出会いについて語った。「以前から面識のあった編集者の小林浩さんが月曜社という出版社を立ち上げるということで、自宅に挨拶に来てくれました。そこでジョルジョ・アガンベンを訳出してほしいと頼まれ、何冊か置いていってくれたのですね。確か99年末か2000年初頭のことだったと思います。その本に目を通した私は同世代のイタリア人哲学者にすっかり魅了されてしまったのです。それと同時に今まで知らなかったことを悔いることにもなりました」と述懐した。

上村氏にとってアガンベンの最初の訳書は教え子の廣石正和氏と共訳した『アウシュヴィッツの残りのもの』(月曜社、2001)で、この本の思い出を振り返る。「アガンベンが取り組んでいた「ホモ・サケル」シリーズの第3巻で、アウシュヴィッツから生還したユダヤ系イタリア人化学者のプリモ・レーヴィが自死する前年に公刊した『溺れるものと救われるもの』(朝日新聞社、2000)で綴られたレーヴィの遺言に現れる証言のパラドックスにアガンベンは挑戦していますが、まことに啓発的な考察だと思いました。同時に、アウシュヴィッツでの出来事についてユダヤ人、ドイツ人、ポーランド人の証言のみによって描かれたクロード・ランズマン監督の『ショアー』とこの作品について論じた批評家のショシャナ・フェルマンによる『声の回帰』(太田出版、1995)が指摘した証言の問題を解決する糸口を与えたように感じました」と述べ、『アウシュヴィッツの残りのもの』以来、岡田温司氏や高桑和巳氏らと競い合うようにして、訳出を進めたと語った。

アガンベンの書物を通して、多くのことを学んだと述べる上村氏は特に自身がかねてから研究をしていた「政治を関係の彼方で思考する」可能性について「ホモ・サケル」シリーズの第1巻『ホモ・サケル』(以文社、2007)やシリーズ最終巻『身体の使用』(みすず書房、2016)が貴重な視座を与えてくれたと述べた。最後にアガンベンの哲学者としての姿勢に対し「何よりも自らが関心を持った題材に対し執拗なまでのこだわりを持ち、終始一貫していて揺るぎないという点に目を引きます。『思考の潜勢力』(月曜社、2009)での高桑和巳さんによる訳者あとがきで「アガンベンは進化ではなく深化する哲学者である」と記していますが、まさに言い得て妙なコメントだと思います」と述べ、受賞スピーチを締めくくった。

授賞式当日は奇しくも上村氏の77回目の誕生日にあたり、来場者全員で上村氏を祝福し、授賞式は幕を閉じた。
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