生沼義朗『関係について』(2012) 聞、ポマード、弁当、樟脳の匂い混じる列車を旅とも言えり |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2018年12月18日 / 新聞掲載日:2018年12月14日(第3269号)

聞、ポマード、弁当、樟脳の匂い混じる列車を旅とも言えり
生沼義朗『関係について』(2012)

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結婚式出席のために東京から富山へ向かう列車の途上で作った歌を、時間軸に沿って並べた連作「北流」のうちの一首。「地震」というキーワードが出てくる歌があるが、二〇〇四年の作品なので東日本大震災ではなく中越地震のことである。

詞書(解説)として発着駅と時刻が歌に添えられている。この歌であれば「11時38分、越後湯沢発はくたか8号和倉温泉行」。MAXたにがわで東京駅から越後湯沢駅に向かい、その後和倉温泉行の特急はくたかに乗り換えるという旅程である。時刻に合わせてリアルタイムで歌を作っていったような構成にする連作というのは、現代の羈旅詠としてよくあるものだ。実際は、後から手をくわえた推敲や演出も入っているだろうが。

富山への旅の風景を「匂い」として強く記憶している点が実にユニークな歌である。しかもポマードや樟脳など、昭和を感じさせるアイテムも登場する。和倉温泉への湯治客だと、そういったものを使うような年齢層も少なくないのだろうか。二〇〇四年ならばもっと現代的な匂いも車内に混じっていてもよさそうなものだが、あえてわざと昭和からあるものばかりを選び取っている。この複雑な匂いこそが昭和の残り香であるとでも言わんばかりに。

この歌の舞台となった特急はくたかは二〇一五年に廃止され、北陸新幹線にその名を引き続き残している。しかし現在の新幹線はくたかには、このような昭和の匂いはもはや漂ってはいないのかもしれない。
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