連載 同性愛の表象 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く(87)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2018年12月25日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

連載 同性愛の表象 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く(87)

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シネマテーク・ブルゴーニュ入口にて
HK 
 先日、ヤン・ゴンザレスの新作を見ました。ヴァネッサ・パラディが出演した『胸の中のナイフ』という作品です。70年代における同性愛とポルノを取り扱った作品です。悪くない出来でした。
JD 
 私の周りの人々も、よく出来た作品だと言っていました。でも、私はまだ見ていません。
HK 
 この作品を見てすぐに気づいたのは、ゴダールやファスビンダーの行った演出がいたるところに再利用され、うまく混ぜ合わさっているということです。その意味で、よく出来ていたのだと思います。しかし主題について語るのなら、ファスビンダーの『13回の新月のある年に』とは比較をすることができません。ファスビンダーにおいての登場人物は、自身の存在自体が問題とさえなります。『13回の新月』のトランスセクシャルは、ドイツの歴史を横断しながら、最終的には死を迎えるまでに至ります。一方で、ゴンザレスの映画においては、映画の表面に見えるものが、表面にすぎません。
JD 
 つまり、ファスビンダーは、男性による売春という、より明確なテーマを取り扱っているのです。役者は売春を演じ、私たちはそれに付き添い売春というシステム自体の中へと入り込んでいきます。そして、そこから話が当時のドイツを取り巻く状況にまで至るのです。
HK 
 この主人公ですが、かつては家庭があり、そこには娘もいる。そして、戦時孤児で孤児院の出身でもありました。ありとあらゆる要素が詰まっています。
JD 
 ありとあらゆる、当時のドイツの歴史と生活が一つになっています。
HK 
 そして、他の登場人物たちに目を向けても、非常に恐ろしい人がたくさん出てきます。今日の世界には、おそらくもう存在していないような人ばかりですが、『少女ムシェット』の猟師のようにして、その当時には存在していたのだと思います。つまり、今日では考えられないような振る舞いを、当たり前のようにして行ってしまうような人たちです。
JD 
 かつての世界において、禁忌というのは今日ではわからないほどに激しいものでした。一方で今日の世界では、何もかもが可能になっています。それゆえに、本物の議論などは起こらなくなったのです。同性愛を拒否する人がいるならば、それは個人の問題であり、周りの人は気にしません。しかし、一昔前までは、社会が同性愛を隠すことを強いていたのです。そのために、多くの悲劇も生まれました。結婚という問題も、そこには絡んでいます。同性が好きでありながら、それを隠さなければならないという事例は、今日でも起きています。同性愛を拒否する、もしくは自分には関係がないと考え、家庭を築きながらも、ふと自身の同性愛に気づくという人は、今でもいます。
HK 
 『13回の新月』の主人公も、娘が大きくなる頃に、同性愛に目覚めた人でした。その意味で、映画の持つ力とは、社会的面にもあるのだと思います。つまり嫌応なく、世界の変化に対応しなければいません。映画には大衆芸術という側面が存在し続け、観客との関連は強制されてきました。いつでも検閲のようなタブーが存在し、敵対するものが社会の鏡のように機能してきたのではないですか。
JD 
 その通りです。例えば、アルモドバルは同性愛を、決定的に受け入れさせましたが、補足のような形でした。それ以前にもすでに、実際には長年にわたり積み上げられてきたものがあったのです。
HK 
 それが、今日の映画との非常に大きな違いだと思います。今日の世界では、いかなることも可能になった。そのために、行き先が見えなくなったのではないでしょうか。これは映画だけの問題ではないと思います。
JD 
 禁忌とされることが少なくなるにつれて、それに反抗する力は減ります。そして、禁忌自体がなくなってしまえば、当然その分野の表現はなくなってしまいます。
HK 
 今日の大きな問題は、映画についての映画が、映画を出発点として作られているところだと思います。映画の引用が引用を生み続け、世界との関連がなくなった。
JD 
 〔沈黙〕
HK 
 そうではないですか。
JD 
 聞いています。続けてください。
〈次号につづく〉
(聞き手・写真=久保宏樹)
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