2018年回顧 外国文学 韓国 K文学と北朝鮮の波が 押し寄せてきた一年|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 外国文学 韓国
K文学と北朝鮮の波が 押し寄せてきた一年

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やいばと陽射し(金 容満)論創社
やいばと陽射し
金 容満
論創社
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今年は北朝鮮の動きが世界的な関心を集めるニュースとなったが、その一方でBTS(防弾少年団)やTWICEなどのK-POPが日本でも大きな話題となり、『ユリイカ』でK-POPの特集が組まれるほどの勢いを示している(『ユリイカ』11月号「特集K-POPスタディーズ」)。出版界でもそれと似たような動きが見られ、北朝鮮や南北関係をテーマとした翻訳書や若手作家によるK文学とも言いうる生きのいい小説が多く翻訳される傾向が見られた一年だった。

北朝鮮関係では南北分断により北から南に避難してきた「失郷民」を両親に持つチョン・スチャンによって『羞恥』(斎藤真理子訳、みすず書房)という三人の脱北者をテーマとした小説が出されている。祖国を脱出する過程で家族を失った脱北者たちの生き延びてしまった羞恥心や韓国社会の差別意識などを描いた小説である。また、金容満キム・ヨンマンの『やいばと陽射し』(韓成禮監訳、金津日出美訳、論創社)も北の武装スパイと南の警察官とが34年の時を経て再会し、南北の境界を越えて酒を酌み交わす物語だ。それらの小説には南北和解への強いメッセージがあることが分かる。脱北した核開発エリートを夫に持つ金平岡キム・ピョンガンによるノンフィクション『豊渓里プンゲリ:北朝鮮核実験場死の情景』(五十嵐真希訳、徳間書店)も出ている。

一方でK文学とも言いうる若手の作家の小説としてはチョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、筑摩書房)が挙げられる。ある日突然自分の母親や友人の人格が憑依した主人公のキム・ジヨン(最も多い韓国の女性の名前)が誕生から受験、就職、結婚、育児にまで至る自分の人生をふり返る中で女性として受けてきた差別を浮き上がらせ、韓国で100万部を越えるベストセラーとなった作品である。就任直後の文大統領にもプレゼントされ、大きな社会現象にもなった。また、ピョン・ヘヨンの『ホール』(カン・バンファ訳、書肆侃侃房)も交通事故に遭った女性主人公が過去を一つ一つ検証していく物語で、アメリカのシャーリイ・ジャクスン賞を受けている。他にもクオンの「新しい韓国の文学」シリーズからブッカー賞受賞作家ハン・ガンのエッセイ集『そっと静かに』(古川綾子訳、クオン)が出ているし、晶文社の「韓国文学のオクリモノ」シリーズとしてファン・ジョンウン『誰でもない』(斎藤真理子訳)、キム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』(すんみ訳)、チョン・ミョングァン『鯨』(斎藤真理子訳)と生きのいい作品が次々と出版されている。書肆侃侃房の「韓国女性文学シリーズ」も加えてこのところ韓国文学の今を伝えるシリーズが活性化していて、K文学の人気上昇に中心的な役割を果たしている。K文学の普及に力を尽くしているきむふなによってセレクトされたきむふなセレクションが『原州通信』(清水知佐子訳)、『あの夏の修辞法』(牧瀬暁子訳)、『風船を買った』(呉永雅訳)、『夜よ、ひらけ』(きむふな訳)、『遠足』(小山内園子訳)と5冊同時に刊行されたのも嬉しいニュースである。

他にも韓国の代表的な作家や思想家ら12人がセウォル号沈没事件に関して思索を寄せた『目の眩んだ者たちの国家』(矢島暁子訳、新泉社)や、文学・映像・アートの各分野の日韓の若手文化人が対話を重ねた『今、何かを表そうとしている10人の日本と韓国の若手対談』(桑畑優香訳、クオン)などの企画ものが出ていたり、岩波書店から絵本『すいかのプール』(斎藤真理子訳)が出ていたりするが詳しく述べる余裕がなくなった。ファン・ジョンウン『野蛮なアリスさん』(斎藤真理子訳、河出書房新社)、キム・ビョラ『常磐の木 金子文子と朴烈の愛』(後藤守彦訳、同時代社)なども見逃せない今年の収穫だろう。いよいよK文学の波が日本にも押し寄せてきたと言いうるような今年の状況が来年2019年にも続くことを祈る。
この記事の中でご紹介した本
やいばと陽射し/論創社
やいばと陽射し
著 者:金 容満
出版社:論創社
以下のオンライン書店でご購入できます
「やいばと陽射し」出版社のホームページはこちら
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