2018年回顧 外国文学 ラテンアメリカ 60年代の〈ブーム〉作家がもはや「古典」に キューバ革命と文学の関わりをめぐって|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 外国文学 ラテンアメリカ
60年代の〈ブーム〉作家がもはや「古典」に
キューバ革命と文学の関わりをめぐって

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 一九六〇年代に世界的なラテンアメリカ文学の〈ブーム〉をひき起こした作家たちの中で、唯一現役で活動を続けているバルガス=リョサの翻訳が今年二冊刊行された。一九六九年発表の『ラ・カテドラルでの対話』は、独裁政権下の祖国ペルーの社会を、多様な人間模様を通して重層的に描き出した、スケールの大きな長篇で、ノーベル文学賞作家としての彼の代表作の一つと位置づけられる。集英社版が長らく品切れ状態にあったので、今年旦敬介氏による新訳が岩波文庫として刊行されたことは、日本の読者にとって嬉しいニュースだった。原作で多用される自由間接話法を用いた表現を、日本語に反映させようと試みた意欲的な翻訳である。

一九八四年の『マイタの物語』は表向きは、キューバ革命に触発されペルーのアンデス山中で起きた武装蜂起が、あっけなく鎮圧されるまでの顛末を描いた政治小説である。しかし同時に、登場人物である一人の作家が、この事件をもとに虚構の物語を創造していく過程が描かれており、そうしたメタフィクション的仕掛けを通してバルガス=リョサの方法論が読み取れる点にこそ、この作品の真の面白さがある(寺尾隆吉訳、水声社)。

同じ寺尾氏の訳でコルタサルの初期の幻想的短篇小説を収めた『奪われた家/天国の扉』も、光文社古典新訳文庫の一冊として刊行された。〈ブーム〉の作家がすでに「古典」の範疇に入るのかと思うと感慨深い。やはり〈ブーム〉を代表するガルシア=マルケスの、『ガルシア=マルケス「東欧」を行く』は、キューバ革命以前に書かれた作者若かりし頃のルポルタージュで、このノーベル文学賞作家の出発点にジャーナリズムが重要な役割を果たしていることが読み取れる(木村榮一訳、新潮社)。

六〇年代の〈ブーム〉は五十九年に起きたキューバ革命が大きな原動力になっているが、久野量一著『島の「重さ」をめぐって』(松籟社)は、キューバ革命と文学との関わりを、革命前夜から、革命の文化政策、そして冷戦終結後の今日的状況までを幅広く射程に収めて論じており、〈ブーム〉の作家たちを理解する上でも得るところが多かった。反革命的と批判され文学活動の場から排除されることになったピニェーラのSF的長篇小説『圧力とダイヤモンド』も今年初め書店に並んだ(山辺弦訳、水声社)。そこからは確かに、革命政権に対する批判的な思いが伝わってくる。水声社からはメキシコの作家イバルグエンゴイティアも寺尾氏により本邦初紹介された。架空の国アレパを舞台とする『ライオンを殺せ』は、独特の風刺に満ちたユーモアが横溢する政治小説だ。

今年は河出書房新社からも二冊の翻訳が上梓された。アルゼンチンのマリアーナ・エンリケスが一昨年に発表するや世界的に話題となった『わたしたちが火の中で失くしたもの』は、十二の短篇がかき立てる恐怖が読者を引き込んでいく(安藤哲行訳)。チリ出身のイサベル・アジェンデが二〇一五年に刊行した『日本人の恋人』は、米国を舞台にしたユダヤ系女性と日系人男性の秘められた恋の物語で、作者の定評あるストーリーテリングの技は健在だ(木村裕美訳)。作品社から刊行されたホルヘ・フランコの『外の世界』は、コロンビアの麻薬マフィアによる暴力的現実を、様々なエピソードを巧みに絡ませながら描き出しており、その手法は同胞のガルシア=マルケスよりもバルガス=リョサとの親近性を感じさせる(田村さと子訳)。
この記事の中でご紹介した本
島の「重さ」をめぐって/松籟社
島の「重さ」をめぐって
著 者:久野 量一
出版社:松籟社
以下のオンライン書店でご購入できます
「島の「重さ」をめぐって」出版社のホームページはこちら
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