2018年回顧 児童文学 子どもの本は「世界を知る窓」 生きるとは何か、人間とは何か、社会の課題が見えてくる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 児童文学
子どもの本は「世界を知る窓」
生きるとは何か、人間とは何か、社会の課題が見えてくる

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子どもの本は「世界を知る窓」と言える。2018年に出版された子どもの本からは、今の社会のさまざまな課題が見えてくる。

まずは、難民問題。『風がはこんだ物語』(ジル・ルイス文、ジョー・ウィーヴァー絵、さくまゆみこ訳、あすなろ書房)は、14歳の孤独な少年ラミがバイオリンを奏でながら「スーホの白い馬」を語り、それに触発されて、ボートに乗り合わせた人々が自分の物語を語り始めるという読物。作品全体を吹き抜く「風」が感じられる挿絵がふんだんに使われている。絵本『ジャーニー 国境をこえて』(フランチェスカ・サンナ作、青山真知子訳、きじとら出版)は、父を戦争で亡くし、難民となって国境を越え、旅を続ける家族の様子が少女の視点から語られている。絵からは家族の恐怖や不安が読み取れる。

多様な民族がいかに共生できるかという課題は、1945年の朝鮮半島で北と南に引き裂かれる姉妹を15歳の敬愛(キョンエ)の視点で描いたYA小説『1945,鉄原』(イ ヒョン著、梁玉順訳、影書房)を通して考えることができる。

日本では、福島原発事故は全く終わっていないが、「それでも『ふるさと』」(豊田直巳写真・文、農山漁村文化協会)全3巻は、放射能汚染によって村や家族に何が起こり、7年後にどんな問題を抱えているのかを、元酪農家、農家、仮設住宅に暮らす女性などを主人公に写真と文でルポルタージュし、その問題の大きさと課題の多さが浮き彫りになる。

多様な性が受け入れられない状況であるのも現代社会の課題であるが、『変化球男子』(M・G・ヘネシー作、杉田七重訳、鈴木出版)も『その魔球に、まだ名はない』(エレン・クレイジス著、橋本恵訳、あすなろ書房)も野球を題材に、性に対する違和感(前者)と、ジェンダーの問題(後者)が描かれている。『変化球男子』は、3歳から体は女子ながら、心はずっと男子だった12歳のシェーンが、男子と偽って学校生活を送る日常から、男性ホルモンの注射を開始することへの父親の無理解や、学校で「ヘンタイ」といじめられる苦悩の日々が描かれている。『その魔球に、まだ名はない』は、主人公のキャスリンが女子であることを理由にリトルリーグへの加入を断られたことから、断りの理由に反論するために女性野球選手の歴史について調べる。

家族のありようも多様になっている。『地図を広げて』(岩瀬成子著、偕成社)は、四年前から離婚のために離れ離れに暮らしていた中学一年生の鈴と小学三年生の弟圭が、母の死によって父とともに三人で暮し始める様子を描いた作品。鈴は、圭が市街地図を買ってもらって毎日、帰宅後に自転車で出かけることに不安を感じるが、圭の状況を想像することによってその理由を理解し、自分の居場所についても考える。

このように、子どもが問題に直面しているとき、想像力は切り抜ける力となるが、『スタンリーとちいさな火星人』(サイモン・ジェームズ作、千葉茂樹訳、あすなろ書房)も『くろいの』(田中清代作、偕成社)も、想像力によって日常を生き抜いている子どもが描かれる。前者は、母親が長期出張に行ったとたん、スタンリーは宇宙から来た火星人として家で過ごし、母親の帰宅によって、人間に戻る。火星人としてのスタンリーの行動から彼の孤独や行き所のない怒りなどの複雑な気持ちが伝わってくる。後者は、幼い少女が「くろいの」という想像上の友だちに出会い、空想豊かに遊ぶ物語だが、その背後に母親の不在や一人でいることの孤独が読み取れる。

これらの本を読むと、「生きるとは何か」「人間とは何か」という問いが沸き起こってくるが、『わたしの森に』(アーサー・ビナード文、田島征三絵、くもん出版)は、真正面から命に向き合った絵本で、『アリになった数学者』(森田真生文、脇阪克二絵、福音館書店)は、アリの視点から数学を考えるという宇宙規模の思考を促す絵本であった。
この記事の中でご紹介した本
風がはこんだ物語/あすなろ書房
風がはこんだ物語
著 者:ジル ルイス 
翻訳者:さくま ゆみこ
イラストレーター:ジョーウィーヴァー
出版社:あすなろ書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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