多事多端な一年 石橋 正考|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月26日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

多事多端な一年
石橋 正考

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公私にわたって多事多端な一年であった。年明け早々の公現祭に入籍した。新学期を迎えた四月には、同じ大学の同じ学部で、幸運にもこれが二度目となる身分の変更を経験した。最初は非常勤から任期付きの常勤、そして今回晴れて任期なしの常勤となったのだが、その都度、想像を超えた環境の激変に内心戸惑う。五月には群像新人評論賞、六月には日仏翻訳文学賞の授賞式があった。いずれもそれなりに時間をかけた、とはいえ、意識の上ではすでに過去のものとなった仕事が対象だったので、著者としてはその代理を務めているにすぎず、これで正真正銘自分の手を離れた感じになった。酷暑の夏には学生引率で初めてインドネシアに行った。

つまり、転機である上にそのことをだめ押しされたような上半期だった。そのわりには実感が稀薄なまま下半期を無事に終えつつあるのは、元より周囲のサポートの賜物ながら、高校時代以来となるシャーロック・ホームズ譚の再読を、オックスフォード版の邦訳と原書で行っていたことも与って力があったように思う。ホームズ論を書いたくせになにを今更、と言われてしまいそうだが、原典とは乖離したイメージの生命力を問題にしていたため、改めての再読の必要はそれほどなかったのである。さらに、笹野史隆氏のおかげですべて日本語になったコナン・ドイルの長篇歴史小説全七作とウォルター・スコットの歴史小説数作を並行して読んでみたところ、これらの作品とは異なり、ホームズものには読者を巻き込んで一種の歴史改変を引き起こす力があり、歴史小説作家ドイルはそれを最初から本能的に恐れていたからこそ、推理小説に歴史小説を抱き合わせる形で第一作『緋色の研究』が書かれたのではないか、と思われてきた。

そして、一年の締めくくりとして、ある方のご厚意で、尊敬してやまない作家・翻訳家の山田稔さんと念願叶ってお会いすることができた。これを励みに、来る年は、少しお留守になっていたジュール・ヴェルヌの翻訳に励むつもりでいる。(いしばし・まさたか=立教大学准教授)
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