2018年回顧 SF 極上のエンターテイメント 震え、卒倒、読む麻薬…飛浩隆『零號琴』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 SF
極上のエンターテイメント
震え、卒倒、読む麻薬…飛浩隆『零號琴』

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零號琴(飛 浩隆)早川書房
零號琴
飛 浩隆
早川書房
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二〇一八年に刊行された日本SFの中で、何をおいても外せないのが飛浩隆一六年ぶりの長編小説である『零號琴』(早川書房)。はるか未来を舞台に特殊な職業の主人公とその相棒が都市全体に配置された超巨大楽器〈美玉鐘〉の整備に向かうとそこでは悲劇も喜劇もごたまぜの一大スペクタクルが──という、基本はシンプルな冒険音楽SFではある。異常なのは、悪趣味なほどに仕込まれていくネタと絢爛豪華な描写の密度、コンテクストの数々(プリキュアシリーズ、ゴジラ、魔法少女まどか☆マギカなど)だ。読み進めるうちに「なぜそうしたコンテクストが散りばめられていくのか」という疑問に答えが与えられ、同時にゾッとする刃が読者へと向けられることになる。読んだ人間から震え、卒倒などの報告が相続く、読む麻薬のような一冊、どうぞご堪能あれ。

いきなりずっしり重い長編を紹介したので次は洗練された短編集を。小川一水の『アリスマ王の愛した魔物』(早川書房)は、数学童話から宇宙SF、生物SF、バイクSF、ロボットSFにまで多彩な方面へと果敢に切り込んでみせる、SF短編の醍醐味はここにあらかた詰まっていると断言できる一冊だ。
続いて、著者藤井太洋が自身の実体験を元にしたという連作短編集『ハロー・ワールド』(講談社)は、仮想通貨、ドローンなど各種現代技術を用いて、世界を自由な場所に変えていくために国家権力と奮闘するプログラマの活躍を描き出す至近未来SFだ。〝いま・ここ〟から地続きの問題と、それを技術によって解決できるのだという〝希望〟を見出していく、いま読むべき作品である。

恒川光太郎『滅びの園』(KADOKAWA)は、地球にやってきた未知の生命体〈プーニー〉との戦い、それが人類にもたらす希死念慮、無気力などの精神異常によって、終末へと向かいつつある人類を描き出す、幻想・終末SF好きにはたまらない一冊だ。

今年始まったミリタリーSFシリーズも一冊紹介しておこう。林譲治『星系出雲の兵站』(早川書房)はSFとしては珍しい兵站物で、勝つためにはどのような装備が、生産力が、距離が必要なのかを考え、それを実行するための権力、政治を含めてみっちり描き出していく。海外も含めて、この四、五年でここまでおもしろい立ち上がりをみせたミリタリーSFは他に思いつかないほど。

他、新人作家勢として、紹介しておきたいのは、創元SF短編賞の受賞作を表題作とした、高島雄哉『ランドスケープと夏の定理』(東京創元社)。すべての異なる知性の会話を成立させる完全辞書が存在することを示す〝知性定理〟があるのか? という問いかけから、あらゆる知性にまつわる三つの定理を証明していく超ド級のハードSFだ。もうひとつ、第六回ハヤカワSFコンテストを受賞した三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』(早川書房)は、シンデレラや竹取物語といった誰もが知っている童話が、もし遥か未来の、人間が技術の発展によってその姿を変質させたトランスヒューマン時代に語り直されたら──さらには、その最後にガンマ線バーストが降り注いでめちゃくちゃになったら──という無茶苦茶な前提で描かれる、異色の連作短編集である。

続いて海外作品をご紹介。まず飛び抜けてオススメなのが、数千年にも及ぶ人類の生存闘争を描き出すハードSFであるニール・スティーヴンスン『七人のイヴ』(日暮雅通訳、早川書房)。月が七つに分裂し、衝突を繰り返した末に破片が地球に降り注ぐ、そんな未曾有の状況を生き延びるための政治と科学を、どこまでもハードに突き詰めていく、オールタイム・ベスト級の傑作だ。ハードSF好きにはグレッグ・イーガン『シルトの梯子』(早川書房)も外せない。データ化された人間たち、死の概念の変化とアイデンティティの同一性への不安、どこまでもハードに行われる〝新時空の理論的な構築〟がミキシングされ、実験によって生まれてしまった、人類の生存圏を脅かす〝新たな時空との対決〟を一冊でまとめた、スマートな傑作だ。

テーマ性の強いものとしては、突然、女たちに強力な電撃を放つ力が宿り、女性が虐げられてきたサウジアラビアなどでは大規模な暴動が起こるなど、社会の支配構造が変わる様を描き出す、ナオミ・オルダーマン『パワー』(安原和見訳、河出書房新社)を推す。もし、男が道を歩いているだけで女にレイプされる心配をしなくてはならなくなったら? など、想像もしなかった恐怖を想起させる逸品だ。

絶対に期待を裏切らないのがルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』(内田昌之訳、竹書房)。戦いに破れ動けなくなった、全長一・六キロメートルにも及ぶ竜のグリオールの身体に絵を描くように偽装して、毒殺を狙う男の人生を描く表題作、ファンタジックな世界で行われた殺人事件を緻密に理屈付けて討論していく法廷ミステリなど、竜という異物がいる日常への解像度が異常に高い、傑作揃いの短編集である。

最後にお気楽な痛快娯楽SFを。テニス・E・テイラー「われらはレギオン」三部作(金子浩訳、早川書房)は、突然の交通事故で死んだと思ったら、保存されていた脳が一一七年後のキリスト教原理主義国家となったアメリカで身体を持たない複製人(レプリカント)として蘇ることとなり、自己増殖する自動恒星間探査機に知的機能の制御係として宇宙に送り出されてしまうボブの奮闘を描いていく冒険SF。宇宙を回って資源を集め、ボブは自分自身をどんどん複製しながら、新たな技術開発、未知の文明との邂逅・接敵、人類の惑星間移民まで目指すようになり──とSFテーマ全部乗せの様相を呈していく、極上のエンターテイメントだ。
この記事の中でご紹介した本
零號琴/早川書房
零號琴
著 者:飛 浩隆
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「零號琴」出版社のホームページはこちら
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