2018年回顧 東洋史 東西の知の結節点、モンゴル帝国 数多い文献や出土品から明らかに|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月23日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 東洋史
東西の知の結節点、モンゴル帝国
数多い文献や出土品から明らかに

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本年は、いわゆる「満蒙」分野から見て行こう。モンゴル帝国が様々な分野の書籍の翻訳を通して、東西の知の結節点となっていたことを数多の文献や出土品などから明らかにしたのが、宮紀子『モンゴル時代の「知」の東西』(名古屋大学出版会)。著者が研究上必要な諸語を取得したユニークな方法は「あとがき」に詳しい。

上田貴子『奉天の近代』(京都大学学術出版会)は、近代満洲の中心地奉天(瀋陽)を、地域主義と効率化に特徴付けられる移民都市社会として描く。満洲事変の遠因も、この中国社会に対する日本人の危機感があった。この奉天で発行されていたモンゴル語新聞、『ムグデニー=モンゴル=セトグール』(奉天蒙文報)の分析からモンゴル知識人の思想に肉薄したのが、烏雲高娃『一九三〇年代のモンゴル・ナショナリズムの諸相』(晃洋書房)で、近年の日本を拠点とした内モンゴル研究の進展ぶりを象徴する。この他、梅村卓・大野太幹・泉谷陽子編『満洲の戦後』(勉誠出版)は、満洲社会のその後を人民共和国まで追った。

中国に眼を向けてみよう。坂出祥伸『初学者のための中国古典文献入門』(ちくま学芸文庫)は、中国学を学ぶ上で必要な、版本や偽書といった基本用語の解説書。良書の文庫化を喜びたい。

一九三一年の満洲事変後、中華民国国民政府が積極的に推進した文化外交を跡付けたのが、範麗雅『中国芸術というユートピア』(名古屋大学出版会)。一九三五年にロンドンで開催された中国芸術国際展覧会と林語堂らの文学・文化活動が、官民一体となって結びついていたとの指摘は興味深い。

三竃島は、日中戦争から国共内戦期にかけて、日本・国民党・共産党と目まぐるしく支配者が交代したマカオ西南部の島。蒲豊彦・浦島悦子・和仁廉夫編著『三竃島事件』(現代書館)は、この島での虐殺事件と沖縄からの集団移民を軸に、従来ほとんど知られることのなかった越境史に迫った。

中村元哉『中国、香港、台湾におけるリベラリズムの系譜』(有志舎)は、三地域の思想界を、リベラリズムの視角から読み解く。日本ならではの中国史研究の試みとしても興味深い。

日本で一般に言われる「韓国・北朝鮮ともにナショナリズムが強い」という言説は果して自明なのか? という問いに挑んだのが、木宮正史『ナショナリズムから見た韓国・北朝鮮近現代史』(講談社)だ。「楽な理解」に甘んじず、「しんどい理解」をこそ、との著者の言葉を噛みしめたい。

蔀勇造『物語 アラビアの歴史』(中公新書)は、アラビア史=イスラーム史、と見做しがちな日本で、おそらく初のアラビア通史。イスラーム化以前の歴史叙述に重点が置かれている。

宮下遼『多元性の都市イスタンブル』(大阪大学出版会)は、同地に暮らした人々の詩など文学作品・叙述史料から都市生活を再現。読んでいると、あたかも都市案内を片手に街を徘徊している気分になる。

小松久男・荒川正晴・岡洋樹編『中央ユーラシア史研究入門』(山川出版社)は、ソ連解体後、研究深化が著しい当該地域史初の手引き。中国世界をとかく東(=日本)からの眼差しで見がちな日本社会にとって、西北からの視角も必要だ。

さて本年は日本における中国学の拠点の一つ、京大の中国学に関連する三冊を得たことも特筆される。

京大東洋史の創始者内藤湖南については、これまでも意図的に全集から外された文章の存在が知られていたが、内藤湖南研究会編『内藤湖南未収録文集』(河合文化教育研究所)は、全集三巻分に相当する逸文を一冊に集大成した。

井上文則『天を相手にする』(国書刊行会)は、京大東洋史を牽引した碩学宮崎市定の評伝で、著者は古代ローマ史の専門家だ。

京大で中国古典文学を講じ、作家としても著名な高橋和巳については、太田代志朗・田中寛・鈴木比佐雄編『高橋和巳の文学と思想』(コールサック社)が編まれた。高橋の満洲国観など、これまでにない視角からの分析は、新たな高橋和巳像を結ぶことだろう。なお前二著に関連して岡本隆司『近代日本の中国観』(講談社選書メチエ)の併読もお薦めしたい。(せき・ともひで=公益財団法人東洋文庫奨励研究員・中国近現代史)
この記事の中でご紹介した本
モンゴル時代の「知」の東西【上巻】/名古屋大学出版会
モンゴル時代の「知」の東西【上巻】
著 者:宮 紀子
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「モンゴル時代の「知」の東西【上巻】」出版社のホームページはこちら
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