2018年回顧 時代小説 歴史時代小説の牽引役だった葉室麟氏 明治維新一五〇年、朝井まかて、新人・赤神諒らの活躍|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 時代小説
歴史時代小説の牽引役だった葉室麟氏
明治維新一五〇年、朝井まかて、新人・赤神諒らの活躍

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雨と詩人と落花と(葉室 麟) 徳間書店
雨と詩人と落花と
葉室 麟
徳間書店
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昨年の時代小説回顧の原稿を書いた直後に、葉室麟氏の訃報に接した。一二年の短い作家生活だったが、現代人は歴史から何を学ぶべきかを問い続けた葉室氏は、間違いなく歴史時代小説の牽引役だった。没後に『玄鳥さりて』(新潮社)、『雨と詩人と落花と』(徳間書店)、『青嵐の坂』(KADOKAWA)、『蝶のゆくへ』(集英社)、『影ぞ恋しき』(文藝春秋)など様々な時代を舞台にした作品が続々と刊行されたのは、多作だった葉室氏らしい。

葉室氏と親交が深かった朝井まかては、『雲上雲下』(徳間書店)で中央公論文芸賞を、『悪玉伝』(KADOKAWA)で司馬遼太郎賞を受賞するなど、活躍が目立った。

今年は明治維新一五〇年であり、明治を顕彰するイベントなども開催された。ただ小説では、賊軍とされた側から戊辰戦争を見た平谷美樹『鍬ヶ崎心中』(小学館)と『柳は萌ゆる』(実業之日本社)、日本人の横暴からアイヌを守ろうとした男を描く河治和香『がいなもん 松浦武四郎一代』(小学館)、故郷の奈良を守るため中央政府に立ち向かった今村勤三を主人公にした植松三十里『大和維新』(新潮社)など、日本の近代化を問い直す作品が多かった。京極夏彦『ヒトごろし』(新潮社)、門井慶喜『新選組の料理人』(光文社)、東山彰良の初の時代小説『夜汐』(KADOKAWA)は、異色の新選組ものである。

戦国ものでは、飯嶋和一の三年ぶりの新作で、朝鮮出兵に向かう時代を緊張が高まる現代の東アジアに重ねた大作『星夜航行』(新潮社)に圧倒された。太田道灌の実像に迫った幡大介『騎虎の将太田道灌』(徳間書店)も力作だ。吉川永青の連作集『老侍』(講談社)は老後をどのように生きるべきかを、垣根涼介『信長の原理』(KADOKAWA)は自分にあった働き方とは何かを考えさせられる。北条早雲の生涯を描いた富樫倫太郎『北条早雲』(中央公論新社)は、第五弾「疾風怒濤篇」で完結した。矢野隆『大ぼら吹きの城』(KADOKAWA)、天野純希『雑賀のいくさ姫』(講談社)は派手な活劇が連続する痛快な作品。清涼院流水が『ジャパゥン ルイス・フロイス戦国記』(幻冬舎)、『純忠 日本で最初にキリシタン大名になった男』(WAVE出版)で歴史小説に参入したのもトピックである。

江戸ものは百花繚乱だが、特に転落していく男の再生を軸に生きる意味を問う西條奈加『無暁の鈴』(光文社)は印象に残った。澤見彰『白き糸の道』(新潮社)、永井紗耶子『大奥づとめ』(新潮社)、谷津矢車『刀と算盤 馬律流青春雙六』(光文社)は、働くことの意義を問うお仕事小説。戯作者が主人公の風野真知雄『恋の川、春の町』(KADOKAWA)は、表現規制の問題に切り込んでいた。野口卓『大名絵師写楽』(新潮社)、木下昌輝『絵金、闇を塗る』(集英社)は、近年人気の絵師ものだが一ひねりがある。

静かなブームが続く古代史ものは、安部龍太郎『平城京』(KADOKAWA)、周防柳『高天原 厩戸皇子の神話』(集英社)などが刊行された。源平騒乱時に焼かれた興福寺再興のため奔走する僧を主人公に救済とは何かに迫った澤田瞳子『龍華記』(KADOKAWA)、鎌倉幕府の黎明期を描く伊東潤『修羅の都』(文藝春秋)、元寇を題材にした帚木蓬生『襲来』(講談社)など、物語の舞台となる時代が広がったのも見逃せない。

中国ものは、仁木英之の〈僕僕先生〉が『師弟の祈り 旅路の果てに』(新潮社)で完結。満州国建国を扱った浅田次郎『天子蒙塵』(講談社)も第四巻で完結した。その一方で、北方謙三は〈チンギス紀〉(集英社)をスタートさせた。宮城谷昌光『三国志名臣列伝 後漢篇』(文藝春秋)、田中芳樹『新・水滸後伝』(講談社)、小前亮『劉裕 豪剣の皇帝』(講談社)は安定の面白さ。岩井三四二『歌え、汝龍たりし日々を 始皇帝紀』(角川春樹事務所)、武内涼『東遊記』(KADOKAWA)は、共に著者初の中国ものである。

新人では、吉森大祐『幕末ダウンタウン』(講談社)、砂原浩太朗『いのちがけ 加賀百万石の礎』(講談社)、諏訪宗篤『茶屋四郎次郎、伊賀を駆ける』(朝日新聞出版)、川越宗一『天地に燦たり』(文藝春秋)らが登場したが、『大友二階崩れ』(日本経済新聞出版社)でデビュー以来、『大友の聖将』(角川春樹事務所)、『大友落月記』(日本経済新聞出版社)、『神遊の城』(講談社文庫)、『酔象の流儀 朝倉盛衰記』(講談社)を続けて刊行した赤神諒の活躍が際立っていた。昨年、〈羽州ぼろ鳶組〉シリーズの第一弾『火喰鳥』(祥伝社文庫)でデビューした今村翔吾も、新シリーズ〈くらまし屋稼業〉(ハルキ文庫)を立ち上げ、伝奇小説『童の神』(角川春樹事務所)を刊行するなど気を吐いていた。

今年は、津本陽氏、古川薫氏、加藤廣氏が亡くなられた。慎んでご冥福をお祈りしたい。
この記事の中でご紹介した本
雨と詩人と落花と/ 徳間書店
雨と詩人と落花と
著 者:葉室 麟
出版社: 徳間書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「雨と詩人と落花と」出版社のホームページはこちら
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