2018年回顧 日本史 中世史 ◇多彩な刊行物◇ 地域社会に目を向けた成果が顕著|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月23日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 日本史 中世史
◇多彩な刊行物◇
地域社会に目を向けた成果が顕著

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本年も日本中世史関係の刊行物は多彩であった。たとえば王権・朝廷をめぐるものには、猪瀬千尋『中世王権の音楽と儀礼』(笠間書院)・白根陽子『女院領の中世的展開』(同成社)・樋口健太郎『中世王権の形成と摂関家』(吉川弘文館)・松薗斉『中世禁裏女房の研究』(思文閣出版)などがあり、小原仁『変革期の社会と九条兼実』(勉誠出版)・金澤正大『鎌倉幕府成立期の東国武士団』(岩田書院)の両書は、治承・寿永の内乱から鎌倉幕府の成立にいたる社会に焦点を当てている。さらに、その鎌倉幕府を倒そうとする戦闘状態が、その後内乱として長期化する事態について、「内乱」そのものに注目したシンポジウムの成果である悪党研究会『南北朝「内乱」』(岩田書院)、そうした時代をも含む室町時代の情勢を検討した植田真平『鎌倉府の支配と権力』(校倉書房)・前田雅之『画期としての室町』(勉誠出版)などもあった。そして戦国時代についても、大貫茂紀『戦国期境目の研究』(高志書院)・金子拓『長篠合戦の史料学』(勉誠出版)・鹿毛敏夫『戦国大名の土木事業』(戎光祥出版)などがあり、とくに公共事業をめぐる成果としては畑大介『治水技術の歴史』(高志書院)があった。文化史的な視点からは、入江康平『弓射の文化史』(雄山閣)の「原始~中世編」と「近世~現代編」が同時刊行された。中世史からの関心では、朝廷儀礼から武家儀礼への変遷や、幕府軍と蒙古軍の弓射をめぐる戦略などの比較が興味深かった。

しかしこうしたなかで、本年とくに顕著だったのは、地域社会に視線を向けた成果が多かったことだろう。しかもそれは中世全期にわたり、似鳥雄一『中世の荘園経営と惣村』(吉川弘文館)・海老沢衷『中世荘園村落の環境歴史学』(同)・銭静怡『戦国期の村落と領主権力』(同)・小林一岳『日本中世の山野紛争と秩序』(同成社)・新谷和之『戦国期六角氏権力と地域社会』(思文閣出版)・薗部寿樹『日本中世村落文書の研究』(小さ子社)などがある。とくに大山喬平・三枝暁子『古代・中世の地域社会』(思文閣出版)は、古代から近世までの史料に残る郷村名を集計した「ムラの戸籍簿」を作成し、その作業のなかから見えてきた、それぞれのムラの特色について分析しようとしたものである。従来中世村落の研究手法としては、主に文書・史料論や現地調査の成果などが駆使されてきたが、こうした「戸籍簿」の分析は新たな視角といえるだろう。思文閣出版のホームページでは、「戸籍簿」のデータベースが順次公開予定とのことで、ますます研究が深化するものと思われる。また、新たな研究視角という点では、人間の生活・生産活動を包括的に捕らえようとする、「生業」を切り口とした春田直紀『日本中世生業史論』(岩波書店)と白水智『中近世山村の生業と社会』(吉川弘文館)が相次いで刊行されたことも特筆されよう。

こうした華々しい成果が蓄積されるなかで、六〇年にわたり歴史学関係の出版をリードしてきた校倉書房が、社長の急逝にともない廃業されたことは、本年もっとも残念なニュースだった。(さくらい・よしお=宮内庁書陵部図書課文書研究官・日本中世史)
この記事の中でご紹介した本
中世王権の音楽と儀礼/笠間書院
中世王権の音楽と儀礼
著 者:猪瀬 千尋
出版社:笠間書院
以下のオンライン書店でご購入できます
「中世王権の音楽と儀礼」出版社のホームページはこちら
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