2018年回顧 芸術 芸術と「ジェンダー」「装飾」「写真」 交差する領域を探求する著作が目を引く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 芸術
芸術と「ジェンダー」「装飾」「写真」
交差する領域を探求する著作が目を引く

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今年は、芸術と「ジェンダー」「装飾」「写真」が交差する領域を探求する著作が目を引いた。

「ジェンダー」「装飾」に関して、味岡京子『聖なる芸術――二十世紀前半フランスにおける宗教芸術運動と女性芸術家』(ブリュッケ)は、従来等閑視されていた、両大戦間期におけるフランスの女性芸術家たちの教会装飾への関与に光を当て、日本では類書がないテーマに取り組んだ貴重な労作。天野知香の『装飾と「他者」――両大戦間フランスを中心とした装飾の位相と「他者」表象』(ブリュッケ)は、ジェンダーおよびポストコロニアリズムの観点から、装飾や芸術を含めた視覚表象が植民地主義のイデオロギーを背景とした文化ヘゲモニーに深く関わっていた側面をも「(装飾自身の罪ではなく)装飾が語る罪」として浮かび上がらせる。田中正之監修『デザインとデコレーション――ウィリアム・ブレイクからエドワード・M・コーファーへ』(ありな書房)は、イギリスにおける芸術とデザイン/装飾の密接にして多彩な関係を探る論集。

「写真」を用いて表現する芸術家が増え、「写真」抜きで(現代)美術を語ることはもはや不可能だ。三浦篤『エドゥアール・マネ――西洋絵画史の革命』(角川選書)は、過去の絵画のみならず写真や版画など多種多様な画像を自由自在に合成するという、マネが作り出した革新的なシステムに着目し、その波及効果が現代にまで及ぶことを明らかにする。「写真」(を含めた複数の媒体)を駆使した芸術家の先駆者の一人であるマン・レイは、一般的な知名度は高くとも学術的な研究対象としての認知度は低かった。木水千里『マン・レイ――軽さの方程式』(三元社)は、このギャップに正面から取り組み、媒体や国境や芸術動向などのあらゆる固定化から逃れようとするマン・レイの全貌に迫った意欲作。

「写真」などの媒体を用いつつ、女性芸術家は様々な角度から「ジェンダー」を問い直す。待望の邦訳の刊行となったロザリンド・クラウス『独身者たち』(井上康彦訳、平凡社、原著は一九九九年)は、九人の「独身者」=女性芸術家を精緻に論じながら、従来のフェミニズム的解釈とは一線を画し、そこに男女二分法を含めたカテゴリーそのものを揺るがす契機を見て取る。日本でジェンダーの視点からの展覧会を精力的に企画してきた、笠原美智子『ジェンダー写真論 1991―2017』(里山社)もあわせて読みたい。

最後に、宮下規久朗『聖と俗――分断と架橋の美術史』(岩波書店)は、著者の専門であるバロック美術だけではなく、従来の美術史では看過されてきたエクス・ヴォート(奉納物、奉納画)や絵馬といった世俗的な「民衆芸術」も同じ俎上に載せる。死者の来世での生活や婚礼を描く追悼絵馬など、遺影(写真)では表現しえない絵画の聖性が、著者の体験を通して立ち現れてくる。
この記事の中でご紹介した本
聖なる芸術―二十世紀前半フランスにおける宗教芸術運動と女性芸術/ブリュッケ
聖なる芸術―二十世紀前半フランスにおける宗教芸術運動と女性芸術
著 者:味岡 京子
出版社:ブリュッケ
以下のオンライン書店でご購入できます
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