2018年回顧 写真 世界的な#me too運動の盛り上がり カメラの前に立つ女性たちの意識が大きく変わった|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 写真
世界的な#me too運動の盛り上がり
カメラの前に立つ女性たちの意識が大きく変わった

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今年最大の写真界のニュースは、荒木経惟が、十年以上モデルとして撮影してきたKaoRiから、パワハラ、セクハラ告発を受けたことである。有名写真家と無名のモデルという関係に上下関係が生まれることは必然であり、告発が持つ意味は重い。世界的な盛り上がりを見せている#me too運動の一環という意味もあり、ことは二人の個人的な問題を超えて広がりを見せた。

そもそも写真は撮る側(写真家)から撮られる側(モデル)に一方的な視線が向けられる。男性写真家は女性モデルをしばしば性的ファンタジーの対象に閉じ込めた表現に終始しがちだが、荒木は例外的に女性の自己表現を肯定する写真家だと捉えられてきた。それだけに今回の告発は衝撃的だった。荒木が同じスタイルで作品を制作している間に、カメラの前に立つ女性たちの意識が大きく変わったのである。荒木のみならず、荒木の写真に影響を受けてきた私たちに突きつけられた現実として受け止めるべきだ。

インベカヲリ★の写真集『理想の猫じゃない』は女性のポートレート写真集という点で荒木の作品と共通点がある。モデルになっている女性たちは若く、無表情で、裸で犬の散歩をしていたり、地面にブランドの紙バッグを肩からかけて岩を上っていたりする。むろん演出写真である。彼女たちの多くはインベのホームページのモデル募集に応え、例外なく対話ののちにカメラの前に立っている。表現したいモデルと、その気持ちを受け止めたうえで自分の表現にする写真家。両者の関係はフラットに近く、交換可能でもある(写真集にはインベ自身の自写像も含まれている)。彼女たちの何人かは、二十年前なら荒木のカメラの前に立っていたかもしれない。

岩根愛の『KIPUKA』は今年の収穫として真っ先に挙げるべき写真集だ。福島とハワイという遠く離れた二つの場所が、盆踊りでつながっている。その意外性とドラマ性がまっすぐに見る者に届く。岩根愛は二つの場所に息長く取材を続け、その成果が今年、写真集と複数の写真展というかたちで爆発した。写真は写っているものを見て想像を広げるところに面白さがあるが、岩根は隙のないカメラワークでその面白さを最大限に広げている。

展示ではIGフォトギャラリーで開かれた金村修の展覧会「Suck Social Stomach」が強烈だった。約四千カットのカラー写真で壁を埋め尽くすという破格の展示で、近年取り組んできた映像作品での経験を写真に戻し、新しい体験を生み出した。インスタレーションはいまや写真展の主流といってよく、東京都写真美術館の「小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家vol.15」でも、作家がそれぞれ個室で空間を演出していた。なかでもミヤギフトシの展示は、写真と映像を同時に展示する魅力的な解の一つとして出色だった。写真と空間との関係についての実験はまだまだ可能性がある。これからも行われていくだろう。
この記事の中でご紹介した本
理想の猫じゃない/赤々舎
理想の猫じゃない
著 者:インベカヲリ★
出版社:赤々舎
以下のオンライン書店でご購入できます
「理想の猫じゃない」出版社のホームページはこちら
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