2018年回顧 演劇 評伝と実践者たちの言葉 老舗の演劇出版社の面目躍如|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 演劇
評伝と実践者たちの言葉
老舗の演劇出版社の面目躍如

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評伝 鶴屋南北(古井戸 秀夫)白水社
評伝 鶴屋南北
古井戸 秀夫
白水社
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今年の演劇書の傾向は、強いて言うならば評伝と実践者たちの言葉が、とくに大著として出版されたことが目立った。あとは老舗の演劇出版社の面目躍如といったところか。最初に挙げるべきは、古井戸秀夫『評伝 鶴屋南北』1、2巻(白水社)だろう。二段組の分厚い本が二冊。持つのも大変な本であり、研究書でもあるが、内容は読みやすい。単なる評伝でもなければ作品解説でもない。南北の人物像に迫りつつも、時代や関連する背景など、広範さのなかで浮かぶ南北像がある。何年、もしくは何十年かけたのか、その時間が本に結集している。もう一つは、内田洋一『風の演劇 評伝別役実』(白水社)だ。今年144作目の新作を書いた別役実の執筆力の精度はまだ衰えていない。別役実について論じたものは多いが、この本は評伝のなかに作家性も同時に提示している。これもまた数年をかけた労力が本にある。

また創作者の言葉として残されたものには、大阪を拠点とした劇団『維新派・松本雄吉 1946~1970~2016』(リトルモア)だ。野外劇を中心として、稀有な表現方法で日本のみならず世界的な評価を獲得して、亡くなった松本雄吉のエッセイやインタビュー、舞台のドキュメントが収録される。また、メキシコで亡くなった舞踏家『室伏鴻集成』(河出書房新社)も、残されたエッセイやノートをまとめた。現代思想などに幅広く言及されながら、舞踏の深さへと誘われる。MODEを主宰する松本修『ぼくの演劇ゼミナール』(言視舎)もエチュードによってカフカ作品を作る方法や、チェーホフなど古典作品を「創作」するためのエッセイだ。羽鳥嘉郎編著『集まると使える』(ころから)は、著というよりも編であり、資料を集めたといった趣だが、若い世代が80年代の消えゆくであろう演劇のマイナー系譜に興味をもつことは貴重だ。他には、アジアで共同製作など作品を作ったアーティストは多いが、アジアで作品を作り続ける小池博史『夜と言葉と世界の果てへの旅』(水声社)や、岡本章が主宰する錬肉工房について、寄稿されたエッセイや対談をまとめた『「現代能楽集」の挑戦 錬肉工房1971―2017』(論創社)などがある。研究では、今年三巻目でついに完結した井上理恵『川上音二郎と貞奴Ⅲ』(社会評論社)も労作だ。近藤耕人『演劇とはなにか』(彩流社)も、同名の本は多数あるが、これもまた広い視野の元に成り立つエッセイだ。

また演劇にも新訳ブームは波及している。舞台で上演されやすい口語的な戯曲が十年ほど前からのブームだ。新訳が待たれていたベケットは、全四巻の予定で遂に出版された。岡室美奈子他訳『新訳ベケット戯曲全集』1、2巻(白水社)だ。座・高円寺という劇場で上演されたエドワード・ボンド著、近藤弘幸訳『戦争戯曲集 三部作』(あっぷる出版社)や、全集の一巻分として第5巻田尻陽一他訳『セルバンテス全集 戯曲集』(水声社)もあった。日本の戯曲で挙げるならば、永井愛『ザ・空気』(而立書房)や神里雄大『バルパライソの長い坂をくだる話』(白水社)が重要なものだろう。
この記事の中でご紹介した本
評伝 鶴屋南北/白水社
評伝 鶴屋南北
著 者:古井戸 秀夫
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
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