2018年回顧 音楽 どこか突き放した眼差しを携 社会の動向と行く末を読み解こうという試み|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 音楽
どこか突き放した眼差しを携
社会の動向と行く末を読み解こうという試み

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「音楽」を扱いながら、その中にどっぷりと浸かり切ってしまうのではなく、どこかで突き放した眼差しを必ず携えている「音楽書」の数々。出版時期が昨年末ゆえ、前回この欄で取り上げ損なってしまった『夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』(レジー著・ blueprint)はその一例だ。夏フェスの変化の過程、またその要因を多様な角度から分析しながら、日本社会の動向と行く末を読み解こうという野心作。単なる夏フェス賛歌ではない、時代の写し鏡としてのフェスに迫りながら、あらまほしきこれからの社会の姿に寄せる著者の思いは、明晰な理論を越えて胸を打つ。

ヨーロッパの宮廷社会における音楽の生々しい存在意義にメスを入れたのが、『ヘンデルが駆け抜けた時代 政治・外交・音楽ビジネス』(三ヶ尻正著・春秋社)。音楽家の活動そのものが、権力者の政治や外交にとっていかに有用であったか、またそうした立場に置かれていた音楽家たちの手に汗握る処世術について、成功例と失敗例の双方から切り込みがなされる。そんなヘンデルの先輩格にあたるモンテヴェルディ作品の魅力を描いたのが、『裏声歌手のモンテヴェルディ偏愛主義 演奏・演出の現場から見た《オルフェオ》《ウリッセ》《ポッペア》《ヴェスプロ》』(彌勒忠史著・アルテスパブリッシング)。目次だけ見ると、小難しいイメージのバロック・オペラの敷居を下げて解説します…のごとき、昨今の安易なクラシック音楽本のようにも思えるが、中味はさにあらず。歌手や演出家として上演現場に携わる著者ならではの視点から捉えたオペラ論ひいては文化論であって、日本発信型のオペラ上演を積極的におこなってゆくべきだという凛としたメッセージも忘れない。

どこにもないものを作ろうという気概が生んだ一枚、いや一冊が『澤野工房物語 下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(澤野由明著・DU BOOKS)である。履物店を営む著者が、自分の聴きたいジャズのディスクを自分で製作すべく、インディーズ・レーベルを立ち上げた。ジャズに傾倒する本当の愛好家だからこそ語りえた奮闘記…といってもそこに記されているのは、お涙頂戴の苦労話などではない。音楽とものづくりに対する、溢れんばかりの愛情である。

『美空ひばりと島倉千代子 戦後歌謡史「禁断の12000日」を解き明かす』(小菅宏著・アルファベータブックス)は、二人のスター歌手の相克と秘められた絆を通じ、戦後昭和歌謡史の隠された一面に迫るもの。美空の追っかけであった島倉が、職業歌手として築き上げてきた誇り高さの裏側で、美空の二番目の定位置であることを受け入れるくだりは、一つ歌謡史を超えて、昭和とは何であったのかを読み手に考えさせる。

ノンフィクションを掲げながらも、語り手の思いが溢れてくる一冊として、『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(かげはら史帆著・柏書房)も挙げておきたい。耳の聞こえなかったベートーヴェンの会話帳を捏造したと言われる反面、それによってベートーヴェンの名声を後世にまで伝えたと言われるシンドラー。両者ののっぴきならざる関係、さらにはベートーヴェンの死後シンドラーに襲い掛かることとなる数々の有名音楽家との攻防を描いた、最高の読み物である。
この記事の中でご紹介した本
ヘンデルが駆け抜けた時 代 政治・外交・音楽ビジ ネス/春秋社
ヘンデルが駆け抜けた時 代 政治・外交・音楽ビジ ネス
著 者:三ヶ尻 正
出版社:春秋社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ヘンデルが駆け抜けた時 代 政治・外交・音楽ビジ ネス」出版社のホームページはこちら
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