2018年回顧 マスコミ メディア過多時代の現代に 日々の生活の中で持つ問題意識|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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回顧総評
更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 マスコミ
メディア過多時代の現代に
日々の生活の中で持つ問題意識

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「明治は遠くなりにけり」が流行ったのは昭和40年代と思うが、その昭和から平成と移り30年を経ると、「昭和も遠くなりにけり」であろうか。

平成最後となる回顧の最初に紹介するのは、方丈社編集部『朝、目覚めると、戦争が始まっていました』(方丈社)、秋山久『君は玉音放送を聞いたか』(旬報社)の二冊。終戦の8月15日をめぐるジャーナリズムに比べると、日本が底なし沼に落ちる12月8日を語り継ぐジャーナリズムがいささか貧弱に見えたのは筆者だけではなかった。

NHK放送記者出身の秋山は豊富な経験と資料を駆使して日本のラジオ放送史を検証している。ラジオ放送は関東大震災(一九二三年)の被災から機運が高まったが、戦争とともにその機能はゆがめられていく。
井上泰浩『アメリカの原爆神話と情報操作』(朝日新聞出版)は原爆投下をめぐる神話―日本を降伏させ、百万人の命を救った、神に代わっての救世主、放射能の否定など―がいかにつくられたかを丹念に検証している。記者出身の研究者である井上が、政府・軍・大学そして新聞が共謀して情報操作と世論形成の過程を記している。これほど強い官民一体はない。

GAFA(ガーファ=グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)が顕在化している。中でも、アマゾンの創始者J・ベゾスはこの四半世紀米国長者番付一位に君臨したマイクロソフトのB・ゲイツを抜いた。サイバー時代も世代交代が目立つ。スコット・ギャロウェイ、渡会圭子訳『the four GAFA―四騎士が作り変えた世界』(東洋経済新報社)は次の十年第五の騎士となる十以上の企業・個人を挙げる一方で、少数の支配者と多数の農奴の時代の到来を予言している。

一方、大原通郎『テレビ最終戦争』(朝日新書)が描くのは世界のメディアビジネスの覇権交代だ。旧来の勢力(ハリウッドやテレビ産業)からFANG(ファング=フェイスブック・アマゾン・ネットフリックス・グーグル)+アップルへ移りつつある中、日本のテレビはどうなるのか。

こうした大状況に比べると、ジャーナリズムは、日々の生活の中で常に問題意識をもって、「おかしいことではないか」の発見と粘り強い取材といった地道な作業であろう。朝日新聞取材班『権力の「背信」』(朝日新聞出版)は数年来の森友・加計問題の取材現場を描いている。~ありきの結果ではなく、それがどのようにして透明なプロセスで行われてきたかを検証することはジャーナリズム、アカデミニズムに限らず、民主主義社会に求められものではないか。

エドワード・スノーデンほか、自由人権協会監修『スノーデン 監視大国日本を語る』(集英社新書)は日本ばかりでなく、益々速度を早める監視社会の構築と恐ろしさ、政府にとって不都合なことを知らせない情報環境への危惧を示す。そして一田和樹『フェイクニュース―新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)はネット世論操作が産業化する今日、民主主義の危機を訴え、津田大介『情報戦争を生き抜く―武器としてのメディアリテラシー』(朝日新書)は情報環境の「汚染」に呑まれるなと警鐘を鳴らす。

とすると、ポピュリズム政治やフェイクニュースがはびこるこうした世界に立ち向かうジャーナリズムの姿勢をもう一度問いかけることも必要である。

古賀純一郎『アイダ・ターベル』(旬報社)はロックフェラー帝国に挑み、解体に追いやった女性ジャーナリトの生きざまを紹介している。一世紀前とはいえ、ターベルの調査報道の手法は現代にも通じるものがある。また花田達朗ほか編著『探査ジャーナリズム/調査報道』(彩流社)はアジアで台頭する非営利ニュース組織の誕生の背景・現状・課題を手際よくまとめ、既成メディアが作り出す大状況に「介入する」状況を作り出すことが必要と説く。

これからジャーナリズムの世界を目指すものにとってよき指南書として望月衣塑子『新聞記者』(角川新書)や望月とマーティン・ファクラーとの共著『権力と新聞の大問題』(集英社新書)を薦める。

ラジオは不幸な時代に生まれたメディアであったが、歴史は同じことをくりかえさない。それをくりかえすのは人間だとすれば、現代のメディア過多時代に同じことが起きても不思議ではない。
この記事の中でご紹介した本
朝、目覚めると、戦争が始まっていました/方丈社
朝、目覚めると、戦争が始まっていました
編集者:方丈社編集部
出版社:方丈社
以下のオンライン書店でご購入できます
「朝、目覚めると、戦争が始まっていました」出版社のホームページはこちら
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