2018年回顧 科学技術 歴史を踏まえて現代の 問題意識を論じた成果|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 科学技術
歴史を踏まえて現代の 問題意識を論じた成果

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現代の問題を考えるさいに歴史をかえりみることが重要だといわれる。このことは最先端に注目が集まりがちな科学技術も例外ではない。本年は歴史研究あるいは歴史を踏まえて現代の問題を論じた成果が多かった。ジェームズ・フランクリン(南條郁子訳)『「蓋然性」の探求―古代の推論術から確率論の誕生まで』(みすず書房)は、古代の法典からパスカルの時代までの「蓋然性」概念を詳細に検討した大著であり、近代確立論の「前史」として軽視されてき歴史を読み直す。山田弘明他訳・解説『デカルト数学・自然学論集』(法政大学出版局)は、これまで繰り返し訳されてきたにもかかわらず、哲学史では無視されてきた数学・自然学の業績の原典からの訳。

現在の科学は一七世紀「科学革命」に始まると以前は言われてきたが、その後一九世紀「科学の制度化」によって現在の科学のあり方が成立したことが強調されるようになった。近代力学はニュートンによって創始されたが、一八世紀に自然哲学からから自然科学への再編成を経て現在知られている「力学」の形が成立した。有賀暢迪『力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新』(名古屋大学出版会)は、そこで重要な役割をはたしたオイラーを中心にそのことを明らかにしている。小澤正直『量子と情報―量子の実在と不確定性原理』(青土社)は、ハイゼンベルクの理論から量子コンピュータ技術へと至る量子力学の発展過程を独自の視点から描く。堤之智『気象学と気象予報の発達史』(丸善出版)は、古代から現在の天気予報にいたる歴史を最新の状況を含め概観する。

山口晃訳『ソローコレクション(ソロー日記全四巻+ソロー博物誌)』(彩流社)は、一九世紀アメリカの環境思想家の日記とエッセイを集約したもの。ソローは以前から有名で『森の生活』などは何回も訳されてきたが、多面的なソローの全貌を知るのに役立つ。コンラッド・タットマン(黒沢令子訳)『日本人はどのように自然と関わってきたのか―日本列島誕生から現代まで』(築地書館)は、欧米での日本研究の第一人者による、日本人がどのように自然と関係してきたかの通史。坂野徹・塚原東吾編著『帝国日本の科学思想史』(勁草書房)は、戦前から戦後にいたる日本において、海外拡張を支えた思想として重要視された科学技術を扱う。隠岐さや香『文系と理系はなぜ分かれたのか』(星海社)は、現在あたりまえに使われている「文系と理系」の区分を西欧や日本の歴史において検討し、受験やジェンダーなどの現在の問題を論じている。

伊勢田哲治『科学哲学の源流をたどる―研究伝統の百年史』(ミネルヴァ書房)は、現在の「科学哲学」のはじまりとされる二〇世紀論理実証主義以前の、一八三〇年から百年間の歴史をかえりみて科学哲学と科学者の関心がなぜすれちがってきたのかを明らかにしているが、近年は科学哲学者もさまざまな現代の問題を論じている。例えば、鈴木貴之『100年後の世界―SF映画から考えるテクノロジーと社会の未来』(化学同人)は、映画「ジュラシックパーク」「二〇〇一年宇宙の旅」などをとりあげテクノロジーと社会の関係を論ずる。また石原孝二『精神障害を哲学する―分類から対話へ』(東京大学出版会)は、精神障害の分類をめぐる現在の問題を解明し、当事者研究などの動向もとりあげている。

小松美彦(今野哲男聞き手)『「自己決定権」という罠―ナチスから相模原障害者殺傷事件まで』(言視社)は、マスコミなどがあまり伝えない、「人間の尊厳」の名のもとに実施されている安楽死・尊厳死などについて多くの実例にそくしてその問題点を指摘している。定松淳『科学と社会はどのようにすれ違うのか―所沢ダイオキシン問題の科学社会学的分析』(勁草書房)は、行政と住民における科学者の役割を具体的事例に即して詳細に分析し、科学と社会のすれ違いの原因を明らかする。
この記事の中でご紹介した本
「蓋然性」の探求/みすず書房
「蓋然性」の探求
著 者:ジェームズ・フランクリン
翻訳者:南條 郁子
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
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