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誰も見ていないから 第22回
更新日:2016年11月18日 / 新聞掲載日:2016年11月18日(第3169号)

誰もみていないから ㉒

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<Beautiful mind series>(鉛筆、越前和紙/2012年)ⒸShinjiIhara

「俺は、絵具で汚れたお前の手が好きだ。」

今でも実家に帰省する際には必ず高校時代の美術部の先生に連絡をして、お酒を呑みながら近況を報告したり、一緒にスポーツをしながら再会を楽しんでいる。

高校時代は美術科の授業で絵を描いたあと、放課後にもまた美術部で絵を描いていたぐらいどっぷりと絵に浸かっていた。そんなある日いつものように絵を描いていると、先生が隣にやってきて、いきなり私の手を掴んで「俺は、絵具で汚れたお前の手が好きだ。」とみんなが見ている前で言うのだ。この告白のような一言で私の頬は林檎のように赤くなっていたに違いないが、報われた気持ちになった。おそらく他の生徒にも我武者羅になって絵を描いてほしいと伝えたくて、そんなことを言ったのだろう。曲がったことが嫌いで怒らせると怖い先生はよく生徒を叱っていたから、万人に好かれてはいなかったが、私はそんな情熱的で真っ直ぐなところが好きだった。

他の生徒が聞いていても「俺はお前のことを贔屓している。」と言ってしまう先生には、自分の信じた道は全力で突き進めと教わり、それが今も制作活動の礎になっている。
(いはら・しんじ氏=画家)
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