2018年回顧 経済学 岐路に立つ世界経済とその未来 経済学にいま何が求められているのか|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 経済学
岐路に立つ世界経済とその未来
経済学にいま何が求められているのか

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リーマン・ショックから10年、明治維新150年、そしてマルクス生誕200年の2018年。現代世界の地政学的危機が重層化し、新たな変革とオルタナティブが多元的に要請される状況下、経済学の思想と理論は、個別事象にとどまらない〈全体像〉を把握することが重要だ。

AIやブロックチェーン、フィンテックなど多様なテクノロジーが急速に進化し、米国と中国との熾烈な貿易戦争の持続化も報道され、世界経済の動向・分断はより不透明感と深刻さを増している。ピケティの著作以降、格差・貧困問題は社会・政治関心として途絶えない。イアン・ブレマーは『対立の世紀』(日本経済新聞出版社)の副題に「グローバリズムの破綻」を掲げ、「ドナルド・トランプが『われわれ対彼ら』の構図を作ったのではなく、この構図がドナルド・トランプを生み出したのだ」と明言する。途上国や新興国の諸事情にも精通する氏の分析と提言の数々は示唆に富んでいる。

野口悠紀雄『世界経済入門』(講談社現代新書)や『「産業革命」以前の未来へ―ビジネスモデルの大転換が始まる』(NHK出版新書)など、氏の諸作品も有益な手引きとなろう。多様な現象の背後にある経済(学の)原理の意義が平易に説かれている。スコット・ギャロウェイのベストセラー『the four GAFA―四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)は、IT革命の先導者ならぬ「神」であるGoogle、Apple、FacebookそしてAmazon(GAFA)の企業戦略とそこに共有される「隠された遺伝子」にまで踏み込み、多面的な実像を巧みに描き出す。

昨年はマルクス『資本論』150年、ロシア革命100年の年であり、今年も「資本主義」をめぐる学術書が相次いで刊行された。岐路に立つのは「世界経済」であり「資本主義」というしくみ自体でもある。水野和夫、ハーヴェイやシュトレークら資本主義の終焉/限界論に賛同し、資本主義の原理や動態・変容そしてオルタナティブの全体像を体系的に論じた伊藤誠『入門 資本主義経済』(平凡社新書)。昨年刊行のドスタレールとマリスの共著『資本主義と死の欲動―ケインズとフロイト』(藤原書店)の訳者であり、見事な訳者解説も執筆された斉藤日出治『グローバル資本主義の破局にどう立ち向かうか―市場から連帯へ』(河合ブックレット)。安田洋祐氏がナビゲーターを務めた続編『欲望の資本主義2―闇の力が目覚める時』(東洋経済新報社)は、D・コーエン、T・セドラチェクそしてマルクス・ガブリエルら現代の批判的知性が、経済成長とテクノロジーの相関や資本主義の本質と未来をめぐって活発な論議を展開している。セドラチェクは『続・善と悪の経済学』として『資本主義の精神分析』(東洋経済新報社)を共著刊行した。際限なき欲望と経済成長の限界および可能性を主題とした小野塚知二『経済史』(有斐閣)も関連文献として高く推奨される。

危機と混迷が深まる時代においてこそ、古典の力や経済思想史の新たな知見が見出され、積極的に活かされてよい。経済思想の多面的な学問的系譜の全体像を俯瞰したナイアル・キシテイニー『若い読者のための経済学史』(すばる舎)は、古代ギリシャの哲学者から通常の経済学史講義で扱われる偉人やノーベル賞学者までの貢献をコンパクトに扱った必読の好著。「経済学には不備な点もあるが、人類にとってきわめて重要なものだ」とすこぶる前向きに締め括る本書全体の内容は、経済学を学ぶことの面白さと楽しさをあらためて強く実感させてくれる。「経済思想の歴史ではなく、資本主義経済に関する思想をたどったものである」というジェリー・Z・ミュラー『資本主義の思想史』(東洋経済新報社)、資本主義と経済学をめぐる雄大なテーマについての名著を選抜したバトラー=ボードン『世界の経済学50の名著』(ディスカバー・トゥエンティワン)も一読に値する作品だ。

総合的社会科学としての財政社会学を長らく提唱し続けてきた神野直彦氏による『経済学は悲しみを分かち合うために―私の原点』(岩波書店)は、氏の自分史たる「生」と「思想」を、時代史をふまえ赤裸々に綴った優しき愛に満ちた作品で、自伝を超えた風味を存分に発揮している。「失われた30年」になる日本経済の現状を深く憂慮し、経済学の使命と役割を真摯に問い直す。宇沢弘文先生の多大な影響をうけ、「人間のための経済(学)」を求め続ける神野氏の姿勢と見識は、〈経済学批判〉の研究とも連動し、これからの経済学と世界経済のゆくえを展望するうえでも大いに傾聴に値する。

最後に主流派からの注目作を3つ。滝澤弘和『現代経済学―ゲーム理論・行動経済学・制度論』(中公新書)は、経済理論・方法の多様な深化に潜む社会哲学的な基礎にも論及し、現代経済学の歴史と現在・未来を系統的に学べる卓抜の書。ノーベル賞学者のジャン・ティロール『良き社会のための経済学』(日本経済新聞出版社)も一般読者向けに幅広い重要なトピックスを詳述している。ゲーム理論の諸成果と豊富な具体例を取り入れ、現代社会における市場の制度的役割を平易に解説した松井彰彦『市場って何だろう―自立と依存の経済学』(ちくまプリマー新書)も含蓄に富む。経済学の原点と発展の〈全体像〉を深く洞察することがとりわけ重要であり、それは今後も継続されよう。
この記事の中でご紹介した本
対立の世紀 グローバリズムの破綻 /日本経済新聞出版社
対立の世紀 グローバリズムの破綻
著 者:イアン ブレマー
翻訳者:奥村 準
出版社:日本経済新聞出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
「対立の世紀 グローバリズムの破綻 」出版社のホームページはこちら
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