2018年回顧 政治学 民主制危機の時代に 分断と対立が世界を覆う|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2018年12月22日 / 新聞掲載日:2018年12月21日(第3270号)

2018年回顧 政治学
民主制危機の時代に
分断と対立が世界を覆う

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 おそらくはいつの時代にも、その時代に特有の「不安」が存在している。近年の「不安」は、民主政治とその危機に――とりわけその内における分断と対立の深化に――由来している。実際に、2018年は分断と対立によって世界中が覆われた年として記憶されることになるだろう。11月以降にフランスで拡大したイエローベスト・デモは、この時代的な不安を表現するものとして、あるいはそれに対する民衆的な応答の一事例として、象徴的な出来事であると言えるかもしれない。

こうした時代的不安感を背景として、あらためて民主政治の危機とその淵源について、多分にジャーナリスティックな要素を含むいくつかの著作が上梓されている。たとえばスティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット『民主主義の死に方――二極化する政治が招く独裁への道』(新潮社)は、選挙を契機として合法的な独裁へと至る民主政治の「死に方」を、ベネズエラなどの事例を基に解説するものであるが、同書において危機をもたらした原因として強調されているのは、社会的情勢の変化や代議制民主政治の構造的要因以上に、規範的・精神的な変化――著者たちの表現に従うならば相互的寛容と自制心という「柔らかなガードレール」の喪失――である。民主政治を支える不文律が失われることで、二極化は昂進し、民主政治は独裁政治へと道を譲ることになると、著者たちは指摘する。こうした人びとの規範的・精神的な変化にデジタル・テクノロジーが大きな影響を与えていると論じているのが、ジェイミー・バートレット『操られる民主主義――デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(草思社)である。両著作の内容は相互補完的に読めるので、併読することでより立体的に民主政治の危機の諸相を理解することができるだろう。また、両著作ともが、現状の分析にとどまらずある種の処方箋を提示しているところに、評者は興味をひかれた。あるいはこのような希望を提示しなければならないようなところまで、時代的不安は昂進しているのかもしれない。

現代の民主政治にまつわるこうした危機を私たちは「ポピュリズム」と呼びならわしてきた。本年もポピュリズムを主題とする数多くの著作が出版されている。たとえばイワン・クラステフ『アフター・ヨーロッパ――ポピュリズムという妖怪にどう向き合うか』(岩波書店)は、ヨーロッパにおける民主政治の危機を、佐々木毅編『民主政とポピュリズム――ヨーロッパ・アメリカ・日本の比較政治学』(筑摩書房)は日米欧の民主政治の危機を、それぞれ豊富な事例分析を踏まえつつ論じるものである。もちろんポピュリズムという理念は、元来必ずしも民主政治と対立するものではない。この理念の思想史的背景を踏まえつつ、現代社会における民主政治のジレンマを分析したものとしては、カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム――デモクラシーの友と敵』(白水社)が非常に示唆的な議論を展開している。

「ポピュリズム」がイデオロギーとして注目を集め続けているという事実は、「ナショナリズム」が国民統合のイデオロギーとしてある種の行き詰まりを見せていることと無関係ではないだろう。こうした状況を背景として、あらためてナショナリズムを考えるためにアントニー・D・スミス『ナショナリズムとは何か』(ちくま学芸文庫)を読むことは、刺激的な読書体験となるはずである。
この記事の中でご紹介した本
操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか/草思社
操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか
著 者:ジェイミー バートレット
翻訳者:秋山 勝
出版社:草思社
以下のオンライン書店でご購入できます
「操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか」出版社のホームページはこちら
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