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”Letter to my son"
更新日:2018年12月31日 / 新聞掲載日:2019年1月4日(第3271号)

Letter to my son(22)

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(C)Eiki Mori Courtesy KEN NAKAHASHI
廊下にある詩人の本棚。今週はどれを借りようか。目の前に延々と連なる背表紙を眺める。ふと、パゾリーニの詩集とDVDがまとめられている一番上の段の隅っこに、3つの青い小さな四角形を見つけた。砂漠に並んでぽっかり浮かんでいるプールみたい。それは鮮やかな青い背景の、半分に切り取られた証明写真だった。近づいてまじまじと見つめる。艶やかな黒い髪、綺麗なかたち の眉毛、やさしい目尻、濃いブラウンの瞳、まっすぐな鼻筋、少し荒れた唇、革ジャンからのぞく首元がよれた白いTシャツ。この人が詩人が言っていたあの青年だろうか。


出会う前の彼、私を見つめる彼、これから出会うだろう未来にいる彼。3人の彼をつなぐ、眩しい1本のライン。私はその上で走ったり、つまずいたり、時々途方にくれ行ったり来たりしながらも彼を思い続ける。グリニッジ・ヴィレッジのトルコ料理屋でのナプキンに、チャイナタウンのスーパーのレシートに、The Village Voiceの余白に、彼についての詩を書く。それらを丁寧に折りたたみ、本棚の最上段の端の隙間にこっそり挟んでいく。そしてその手前に、お守りのように証明写真を立てかける。
“私の舌が映し出す幻とは、一度も父親にならなかった息子の幻…”読んでいたパゾリーニの詩集のページの上に、突然差し出された証明写真。「それあげる」。彼はそう言うと、そのままレコードを選び始める。彼なりのクリスマスプレゼントだろうか。私は指紋がつかないように気をつけながらそれを手に取り、額装でもしようかなと冗談を独り言ちる。

“ボンッ”針の落ちる音がして馴染みの曲、コール・ポーターのI’ve Got You Under My Skinが聞こえてきた。「你肯定要用框把它鑲起來了~(あなたはきっと額装する~)」彼は替え歌にして ふざけて歌いだす。
(もり・えいき=写真家)
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