幸福の増税論 財政はだれのために / 6357(岩波書店)「みんな」の叫びにこたえる 互いを承認し合える社会を作ろうじゃないか|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年1月3日 / 新聞掲載日:2019年1月4日(第3271号)

「みんな」の叫びにこたえる
互いを承認し合える社会を作ろうじゃないか

幸福の増税論 財政はだれのために
著 者:井手 英策
出版社:岩波書店
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リベラルが居場所を失いつつある。そんな現状を突破すべく、政治の現実に身を置き、そこで受けたあらゆる批判に応えようと書きあげたのがこの本だ。

左派やリベラル、そして現政権がこぞって使うことばに「共生」がある。聞こえのいい言葉だ。だが、日本社会を見る限り、人びとが共生を望んでいるとはとても思えない。
日本の税の負担率は先進国のなかでもかなり低い。だが、税の痛みは、北欧諸国のそれよりも強く、所得再分配を支持する人の割合も低い。それどころか、世界価値観調査によれば、「他人を犠牲にしなければ豊かになれない」と回答した人の割合は、1990年の24・8%から2010年には38%へと上昇している。

「自己責任」と「承認欲求」。このふたつが生きづらさの淵源だ。現役世代に向かう社会保障の対GDP比は先進国で3番目に低く、教育費の私的負担は一番大きい。現役世代は、自らの収入で蓄えを作り、自己責任で将来に備えなければならない。そして、この自己責任を果たしてはじめて、他者から承認される社会なのだ。

だがいま、「無責任予備軍」が急増している。勤労者世帯の手取り収入のピークは1997年だ。一人当たりGDPは2000年に世界2位だったが、現在では25位に下がり、世帯の手取り収入が340〜50万円程度の人たちが全体の45%を占める。先進国最高だった家計貯蓄率はゼロ近くに下がり、生活保護の利用者数も増大の一途だ。

僕たちは貧しくなった。しかし、「他者への依存」が「他者からの否認」につながる社会では、低所得層だと告白することさえできない。内閣府の調査によると、これだけ所得が下がっても、93%の人たちが「中流」だと主張する。そして、4%しかいない「下流」の人たちのために、左派やリベラルは声をあげ続け、選挙では敗北を重ねている。

印象的な数字がある。人びとは「だれか」より、「みんな」が安心できる社会を望んでいる。ふたたび世界価値観調査を見てみると、「国民みなが安心して暮らせるよう国は責任をもつべき」という問いに対し、1990年に63・2%だった賛成者の割合は2010年には76・4%へと増大している。

僕はこうした「みんな」の叫びにこたえたかった。自己責任はもういい。みながちゃんと互いを承認し合える社会を作ろうじゃないか。そう訴えたかった。

本書の提案はシンプルだ。消費税とその他の税を組み合わせ、みなが税で痛みを分かち合いながら、子育て、教育、医療、介護、障がい者福祉を無償ですべての人に提供するのだ。端的にいおう。もし消費税を7%強あげられれば、そんな社会が実現する。大増税に聞こえるかもしれない。だがこれでも先進国の平均以下の国民負担率でしかない。病気をしても、失業しても、長生きしても、子どもがたくさんいても心配してなくていい。そんな社会を僕たちは作れるのだ。

もちろん税にはいろんな反発がある。その疑問にも一つひとつ丁寧に答えたつもりだ。ともに生きることをあきらめない。喜びはもちろん、痛みさえも分かち合う社会を子どもたちに残したい。だから僕は批判を覚悟のうえで「増税本」を書いた。そう。壊れかけの未来を再建するために。
この記事の中でご紹介した本
幸福の増税論 財政はだれのために/岩波書店
幸福の増税論 財政はだれのために
著 者:井手 英策
出版社:岩波書店
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