グロテスク×タイ= 魅力的な場所|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

ニューエイジ登場
更新日:2018年12月31日 / 新聞掲載日:2018年12月28日(第3271号)

グロテスク×タイ= 魅力的な場所

このエントリーをはてなブックマークに追加
私は現在、「タイの地獄寺」というものを研究している。地獄寺とは、寺院の一角にコンクリート像で地獄空間をつくっている寺院のことだ。その様子は一見キッチュでグロテスクであり、日本では「珍スポット」として知られている。そんな珍スポットなどと呼ばれている場所を大学院で大真面目に研究しているというと、必ずこう質問される。「どうして地獄寺に興味を持ったのか?」と。

私がタイの地獄寺を知ったのは、高校三年生の頃である。その頃、毎日のように放課後友達と集まっては、ネットでいわゆるグロ画像を見て盛り上がっていた。いま思えば不謹慎極まりないのだが、そういった禁忌性のある事象に惹かれるのは思春期にはありがちなことである。また、同時期にタイ料理に出会い、タイという国に惹かれはじめる。おいしい料理はもちろんのこと、極彩色の色遣いや眩いくらいにキラキラした装飾、そういったものがふんだんに用いられたファッションや街の景観など、知れば知るほどタイのカルチャーに魅せられていった。

そうしたなかで、タイのカルチャーの一部分を担うものに「グロテスク」があることを知る。なんと、タイではグロテスクなものに抵抗がなく、一昔前までは公然とそのような特集雑誌などが売られていたらしい。さらには死体博物館まであるというのだ。衝撃を受けているなか、友達が「地獄寺というものがある!」と教えてくれた。当時、ネットでは日本人による地獄寺旅行記が掲載され、簡単に写真を見ることができた。かくして、グロテスク×タイという、当時の自分にとって最も魅力的な場所を知ることになるのである。以降、心のどこかで「いつかタイに行ってみたい!」という気持ちをずっと抱え続けていた。
タイの地獄寺(椋橋 彩香)青弓社
タイの地獄寺
椋橋 彩香
青弓社
  • オンライン書店で買う
それから数年後、大学生活も一年が過ぎ、アルバイトをはじめることにした。いくつもの面接に落ちて途方に暮れていた矢先、一件だけ採用してくれる店が見つかった。それは奇しくも、タイ料理屋であった。こうして、同僚のほとんどがタイ人、タイ語が日常的に飛び交う空間、そしてまかないは毎食タイ料理食べ放題というタイ漬けの生活が幕を開ける。私がどんなに辛くて臭いタイ料理でもおいしそうに平らげることも相まって、タイの人たちとの距離はどんどん縮まっていった。そしてこの頃にはもう、タイという国、そしてタイの人たちが好き好きでたまらなくなっていた。

そして、大学二年生の春、ついに念願のタイへ行くことになった。初めてのタイどころか初めての海外旅行であった。もちろん、地獄寺も訪れたのだが、他の有名観光地へ行くのとはわけが違った。あまりにも田舎で、英語はどこにも書かれていない。タイ語で寺院の名前だけが書かれた紙を持って、必死にまわりの人たちに尋ねまわった。結局、親切な人たちに助けられ、無事に辿りつくことができた。寺院が見えてきた時には、ホッとしたのか目には涙がうかんでいた。いま思えば大袈裟かもしれないが、あまりにも不安で怖くて、もうこの場所で死ぬのではないかと思ったこの経験は、文字通り「地獄めぐり」であった。

こうした地獄めぐりの経験、またその時に受けた親切が忘れられなくて、気づいたら大学院にまで進んでしまっていた。タイという国、タイの人たちの親切心、そしてタイの地獄寺は、ずっと私の心にあり続けていて、そこから離れるのは想像することすら怖い。私はこれからもずっと、タイと関わって生きていくだろう。

この記事の中でご紹介した本
タイの地獄寺/青弓社
タイの地獄寺
著 者:椋橋 彩香
出版社:青弓社
以下のオンライン書店でご購入できます
「タイの地獄寺」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
椋橋 彩香 氏の関連記事
ニューエイジ登場のその他の記事
ニューエイジ登場をもっと見る >
人生・生活 > エッセイ関連記事
エッセイの関連記事をもっと見る >