新春特集 新書のすすめ  武田徹さんが新書を買う|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年1月1日 / 新聞掲載日:2019年1月4日(第3271号)

新春特集 新書のすすめ
武田徹さんが新書を買う

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新年恒例「新春特集・新書のすすめ」をお届けします。一面「新書を買う」では、ジャーナリスト・評論家の武田徹さんに、書店店頭で新書を選んでいただき、二面以降では版元選りすぐりの新書をご紹介。著者自身が自著を語る「私のモチーフ」、各社新書編集部から「売れ行き好調の10点」リストと、その中から一冊について読みどころを。さらに「近刊ピックアップ」では、刊行予定の一冊を教えていただきました。年のはじめに、どの新書を読みましょうか? どうぞお楽しみください。       (編集部)


二〇一九年の「新書を買う」企画にご登場いただいたのは、専修大学文学部人文ジャーナリズム学科教授で、ジャーナリスト、評論家の武田徹さん。様々な媒体で執筆のほか、著書に『日本ノンフィクション史』(中公新書)、『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか』(新潮新書)、『私たちはこうして「原発大国」を選んだ』(中公新書ラクレ)、『原発報道とメディア』(講談社現代新書)、『戦争報道』(ちくま新書)など、新書も多い。また、近著に『井深大 生活に革命を』(ミネルヴァ書房)がある。

武田さんに師走のひととき、三省堂書店神保町本店で新書を選んでいただいた。
第1回
『国体論 菊と星条旗』/『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』/『高坂正尭――戦後日本と現実主義』

国体論 菊と星条旗(白井 聡)集英社
国体論 菊と星条旗
白井 聡
集英社
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◎白井聡『国体論 菊と星条旗』(九四〇円・集英社新書)         「白井さんといえば、『永続敗戦論』(太田出版)が話題になりました。確かに面白い本だったけど、日米関係の中で戦後史を見ていく、という強固な枠組みの内側で、その後に議論がどう展開するのか、リベラル御用達の文化人の扱いに固まっていってしまうのではないか、そんな印象があったんです。たとえば吉本隆明が『共同幻想論』で、鮮烈な印象を残した一方、多くの信奉者を得たために、彼らを裏切れないということで自分自身も一度作り出した思想の枠組みに足をとられていく――そのことは、田川建三が『思想の危険について』(インパクト出版会)に書いていますが、白井さんもそれに近い道筋を辿ってしまうのでは、と勝手ながら考えていたところがある。

ところが、栗原康さんの『現代暴力論』(角川新書)の刊行記念の対談だったと思いますが、まとめられたのを読んでみたらすごく面白くて、白井さんに対するイメージが覆された。実は栗原さんだけでなく、白井さんもやんちゃな人だったみたいで(笑)。そのやんちゃさが、白井さんの社会思想論にどんどん出てくるといいと思っています。この本は〈国体〉という非合理の極みのような観念を導入して、『永続敗戦論』の枠組みから飛び出そうとしているのではないかと期待して選びました」

◎栗原康『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』(八六〇円・岩波新書)

「これは、未だかつてない岩波新書。口語体のぶっ飛んだ文章で、序章の「アナキズムってなんですか?」は、〈チャンチャンチャチャーン〉〈どえれえやつらがあらわれたァ!〉ではじまるからね(笑)。岩波新書がここまで来たのかと。装幀も、青版、黄版、赤版ならぬ、黒版? 白井さんの新書と期せずして同色の装丁は凶暴な感じでいいですね(笑)。もちろん壊すだけでなく、そこから新しい、読むべき本を出せなければ岩波新書は暗黒時代を迎えるわけで、今後どちらに進むかを占う試金石の一つとしても読んでおきたいと選んだ本です。

〈アナキズム〉って無責任ですよね。実は誰もが完全に自由に振る舞えるはずはなくて、あいつが自由気ままにやったしわ寄せが自分に来たという人も出るはず。理詰めで考えたら、そんなアナキズムが社会的に実現する可能性はない。政治哲学者ロバート・ノージックは少なくとも警察権力が存在して、個々人の権利や私的財産を守れるような基盤がないと、社会としては成り立たないとしてアナキズムを否定しました。

ただ少し前までは、こうしてアナキズムは論外だと言って済ませられたけれど、ここまで政治が腐ってくると、そうも言っていられない。現実政治からとことん離れてアナキズムを考えるところから始めなければならない議論もあるように思うんです。以前に浅羽通明が『アナーキズム 名著でたどる日本思想入門』(ちくま新書)を出していますが、歴代のアナキズム論を通して読んでみると、逆にそこから時代の変化が見えてくるかもしれません」

◎服部龍二『高坂正尭――戦後日本と現実主義』(一〇〇〇円・中公新書)

「高坂正尭は、『中央公論』の、いわゆる「現実主義路線」で起用され、活躍した人です。右翼団体が中央公論社の社長宅を襲撃し、お手伝いさんが殺傷された、「風流夢譚」事件は有名ですよね。そのタイミングで、中公が販売を請け負ってきた鶴見俊輔の『思想の科学』が、天皇制を特集する。右翼のさらなるテロを恐れた社長の嶋中朋二は雑誌を発売中止にする。それで右翼から言論テロを受けた中公が、今度は左翼からも言論弾圧だと責められます。その結果、右からも左からも書き手がいなくなって当時の『中央公論』の編集を事実上任された、のちに評論家になる粕谷一希は、新規の著者を開拓する必要に迫られ、京都学派の哲学者・高坂正顕の息子だったら面白いかもしれないと高坂正尭に声をかけるんです。

そして「現実主義者の平和論」を『中央公論』に書いたのが、高坂の論壇デビューです。坂本義和、加藤周一、丸山眞男らのいわゆる「非武装中立論」に対する反論ですね。非武装中立の理想は崇高だが、もし本当に日本が非武装中立路線を選択したら、東アジアの均衡が崩れることまで視野に入れて語っているのか。理想的な目的ばかり謳いあげて手段の議論に欠けるリベラル系論客に異論を唱えたわけです。

この論文が論壇の転換期となり、『中央公論』も左や右を安易に志向するのではなく、あくまでも「中央」を模索し、論争のなかで「公論」を形成しようとする新しい雑誌作りの起点となる。そんな流れを用意し、やがて『サンデープロジェクト』や『朝まで生テレビ』に舞台を移しつつも論壇の要の位置に立ち続けた高坂の足跡を辿ることで、戦後の日本を「現実主義」の観点から模索しようという、四〇〇頁超の部厚い一冊。大量の参考文献も、老眼対応はしてくれていませんが(笑)、非常に充実しています」
『小泉信三――天皇の師として、自由主義者として』/『知ってはいけない2 日本の主権はこうして失われた』/『田中角栄 最後のインタビュー』

◎小川原正道『小泉信三――天皇の師として、自由主義者として』(七八〇円・中公新書)

「もう一冊、中公新書ですが、高坂からさらに遡って戦後史の源流を探ろうとしている一書。小泉信三は経済学者であり、慶應義塾長でしたが、それよりも今上天皇の皇太子時代の家庭教師であり、象徴天皇制という新たな天皇像に実質を与え、戦後の皇室を作り上げることに尽力した人です。平成の終わりにこんな新書が出るというのはタイムリーでしょう。

小泉信三が戦後すぐの時期に書いた平和論もまた現実主義的なものでした。その流れを継いで福田恆存が、運動家として頂点を極めようとしていた、当時の清水幾太郎批判を書く。先ほどの粕谷さんが中公の入社試験で嶋中さんに面白かった例として話したのも、この福田の論文だったそうです。福田は平和論は屠蘇の杯のようだと。お屠蘇の杯って大中小と重なっているでしょう。左派の平和論は、日本で犯罪が多いのは日米安保がいけないというような、目の前の問題を大枠の議論で覆う語り口になっている。それでは現実の問題に全く解決策を出していないと批判したわけですね。

高坂とか小泉についての新書をラインアップしている中公新書を通じて、中公を含む戦後出版史が、そしてそうした出版史を用意した戦後日本社会史が、辿れそうでもありますね」

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