村田馨『疾風の囁き』(2009) 恵比寿駅ヱビスビールの工場なく夜毎男と女が集う|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年1月15日 / 新聞掲載日:2019年1月11日(第3172号)

恵比寿駅ヱビスビールの工場なく夜毎男と女が集う
村田馨『疾風の囁き』(2009)

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本職が鉄道技術者ということもあってか、トップクラスに鉄道の歌が多い歌人である。この歌も、その名も「駅―STASIONS」という、日本各地の駅を題材とした連作の中の一首である。

恵比寿駅はJR東日本山手線の駅。同地にはヱビスビールを生産していた日本麦酒醸造株式会社(現サッポロビール)の工場があり、ビール運搬のための貨物駅としての設置がはじまりである。恵比寿の名はもちろんヱビスビールに由来している。商品名が地名になった例はかなり珍しいのではないかと思う。ビール工場は1988年(昭和63年)に千葉県に移転。工場の跡地には1994年(平成6年)に恵比寿ガーデンプレイスが建てられた。それをきっかけに渋谷区の中でも地味な存在であった恵比寿が急速に発展し、「お洒落な街」「住みたい街」としてメディアでたびたび取り上げられるようになった。

村田馨のこの歌も、ビール工場があった歴史が忘却され、きらびやかに男女が集うようになるまでに様変わりした恵比寿駅の風景を描いている。それは絶え間ない開発と忘却を繰り返してゆく東京という都市そのものに対する批評でもある。しかしそもそもが商品名を由来としているという街だけにその見事な忘却ぶりも、恵比寿という街の性格とみているのかもしれない。

「ビール工場の街」だった頃の恵比寿の記憶を最もよく語っている著名人は、同地で生まれ育った稲川淳二(1947年生まれ)である。卵屋、納豆屋、牛乳屋、豆腐屋などが立ち並ぶ、いたって庶民的な街だったそうだ。(やまだ・わたる=歌人)
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