文学はおいしい。 書評|小山 鉄郎(作品社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年1月12日 / 新聞掲載日:2019年1月11日(第3172号)

小山 鉄郎著『文学はおいしい。』
大東文化大学 石川 裕也

文学はおいしい。
著 者:小山 鉄郎
出版社:作品社
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文学はおいしい。(小山 鉄郎)作品社
文学はおいしい。
小山 鉄郎
作品社
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ページを開けば、おいしそうな料理の匂いが立ち上る。そして料理にまつわる人々の思い出の香りが私の胸をくすぐる。さらに読み進めると、食を通した日本という国の記憶の物語でもあることが分かる。素麺、トンカツ、ホットケーキにハンバーガー。普段食べている料理でも、未知の隠し味に気付かされるかも知れない。

本書は「文学を食べる」というタイトルの新聞連載をまとめたもので、食べ物や飲み物が出てくる小説やエッセイ、詩、短歌、俳句などを取り上げ、作品中ではたす料理の意義を作者や登場人物と絡めて紹介しつつ、食文化史からの観点を加え、料理と作品の隠れた一面を浮かび上がらせる。また、ハルノ宵子氏による暖かみのあるイラストも、おいしさを増している。

取り上げている料理は、吉本ばなな『キッチン』のカツ丼や森鷗外『雁』の鯖の味噌煮、斎藤茂太『茂吉の周辺』の長崎チャンポン、佐藤春夫「秋刀魚の歌」の秋刀魚、吉本隆明「わたしが料理を作るとき」のネギ弁当など百種類もあり、コーヒーやワインといった飲み物、さらにはアイスクリームやカステラのようなデザートまで取り揃えてある。

例えば「冷奴」。取り上げる作品は安岡章太郎『酒屋へ三里、豆腐屋へ二里』である。 表題作の中で「毎朝、豆腐ばかり食うようになった」「やはり生のまま冷奴で食うのが一番いい」と「冷奴」への生真面目な執着を紹介する。

胆のうと心筋梗塞で半年間入院、手術を受けた安岡は、退院後も多摩川べりをよく散歩した。コースの一つに等々力渓谷があり、その崖上に近い路地に豆腐屋があった。そこの「豆腐は渓谷の湧水の水質がいいせいか、食ってみるとなかなか旨かった」とある。そして安岡は兵隊時代、満州で食べた油臭い豆腐のことを思い出し、豆腐のおいしさには水質が関係していると述懐する。

日本の豆腐は第二次世界大戦中に凝固剤の「にがり」が、飛行機の材料として軍需用に統制され、代わりに「澄まし粉」が使用されることになった。「澄まし粉」で凝固させた豆腐は、保水性がよく、舌ざわり滑らかで戦後も定着したが、最近では、自然志向やグルメ志向により再びにがりの使用が増えているそうだ。

シンプルな料理の筆頭である「冷奴」は、「戦争」という極めて苛酷な記憶を呼び起こす料理だった。そんな「冷奴」を安岡は何故よく食べたのか。著者は「渓谷から湧き出す水の質のよさ、それでつくられる豆腐のおいしさ。それは自己再生の願いが込められた味だったのだろう」と記す。

「もくじ」を見ると百種類の料理名がずらりと並んでいる。まるでレストランのメニューのようだ。そこで、食をそそるものを店に注文するようにページを開いてみる。一話一話味わっていくうちに、いつしか自分が文学グルメになっていることに気づく。

作品内の小道具である「料理」に注目してみることで、文学に新たな視点を得るとともに、食文化への関心の幅が広がる。また、本書で取り上げられている文学作品から、自分で作ってみようかと台所に立つとすれば、本書は文字通り「おいしい」実用書としても魅力を放つことになるだろう。
この記事の中でご紹介した本
文学はおいしい。/作品社
文学はおいしい。
著 者:小山 鉄郎
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
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