ロイ・フラー 元祖モダン・ダンサーの波乱の生涯 書評|山本 順二(風媒社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年1月12日 / 新聞掲載日:2019年1月11日(第3172号)

◇多才な一人間として◇    
魅力と功績を余すことなく伝える

ロイ・フラー 元祖モダン・ダンサーの波乱の生涯
著 者:山本 順二
出版社:風媒社
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ベル・エポックのパリを席巻したアメリカ人舞踊家ロイ・フラー。彼女は自ら考案した「サーペンタイン(蛇のような)・ダンス」で光と闇の対比を試み、「光の魔術師」、「アール・ヌーボーの化身」と称された。闇の中で斬新な衣装を自由自在に操るダンス、色彩豊かな光の照明、この融合が幻想的な空間を創出し当時の観客を瞬く間に魅了した。しかし、この成功の裏では、作品を守るための屈辱的な体験、誤解や裏切り、莫大な借金など様々な災いが生じ彼女の内にも光と闇が絶えず交錯していた。
本書は、このような波乱に満ちた人生を歩んだロイ・フラーについての本邦初の本格的評伝である。著者は長年新聞記者を務めていた山本順二氏で、執筆動機は前著『漱石のパリ日記』で一九〇〇年のパリにおける夏目漱石の足跡を辿り、万博で一大旋風を巻き起こしていた川上貞奴と漱石の接点を調べていた際、ロイの存在に興味を抱いたからだという。
昨年公開された映画『ザ・ダンサー』の影響もあり、舞踊家として知られるロイであるが、本書は彼女の多様な側面についても捉えている。当時の著名人との広範にわたる交流には目を見張るものがあり、ルーマニアのマリー王妃をはじめヨーロッパの王族、清朝の高官やアメリカの大富豪、発明家エジソンやキュリー夫妻、彫刻家ロダン、『椿姫』の作者デュマ、舞踊家ダンカンほか名をあげれば枚挙に暇がない。また興行師として、川上貞奴・音二郎、花子の名を欧州で高めるなど、その優れた手腕と直感力を見せつけた。第一次世界大戦中は、フランス、ベルギー、ルーマニアを支援する事業に取り組み、アメリカでロダンの芸術の普及に奔走している。興味深いのは、ロイが数多くの王侯貴族、著名人たちと関わりながらも、一方で社会の最下層に位置づけられる人たちを「人生の達人」と見做していたところである。ここに当時の階級社会の枠に囚われず、世界中を闊歩し、誰にも公平に接する彼女の堂々とした姿が見て取れる。
ロイが執筆した回想記『私の人生の十五年』は時系列に沿って語られていないが、本書は自らの道を持ち前のフロンティア精神で切り拓く彼女の勇姿を年代順に丁寧に記している。一九〇八年までは回想記からの引用を効果的に織り交ぜてあり、まるで彼女が読み手のすぐ側で、直に肉声で語りかけているかのような錯覚を覚えるほどの臨場感が伝わってくる。共に巡業を行った貞奴・音二郎、ダンカン、花子については、ロイの回想記や関連史料のみならず、相手側の史料を突き合わせ、見解の相違を呈示している。このように可能な限り真実に迫っている点が本書の随所に見られ、記者であった著者の本領が存分に発揮されている。

本書は、十九世紀末から二十世紀初頭の文化・芸術・社会・国際情勢も視野に入れ、激動の時代を駆け抜けたロイ・フラーを舞踊家に留めることなく、多才な一人間としての魅力と功績を余すことなく伝えている貴重な一冊である。(やぎした・えみ=早稲田大学講師・芸術文化史)
この記事の中でご紹介した本
ロイ・フラー  元祖モダン・ダンサーの波乱の生涯/風媒社
ロイ・フラー 元祖モダン・ダンサーの波乱の生涯
著 者:山本 順二
出版社:風媒社
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「ロイ・フラー 元祖モダン・ダンサーの波乱の生涯」出版社のホームページはこちら
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