「放射線による健康被害はない」というのが政府・東京電力の一貫した姿勢である 只野靖弁護士(飯舘村村民救済弁護団事務局長)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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原発事故から8年:飯舘村でいまなにが起こっているのか
更新日:2019年1月18日

「放射線による健康被害はない」というのが政府・東京電力の一貫した姿勢である
只野靖弁護士(飯舘村村民救済弁護団事務局長)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)

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今中哲二氏インタビュー(「飯舘村長泥地区をフレコンバックの最終処分場にするな」に引き続き、飯舘村村民救済弁護団の事務局長・只野靖弁護士にお話を伺った(聞き手=佐藤嘉幸)。ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)が抱える問題点とは何か。主に法律的な面に焦点を当てて、お話いただいた。(編集部)
第1回
初期被曝をめぐる、東京電力によるADR調停案拒否をめぐって

只野 靖氏
佐藤 
 飯舘村民救済弁護団の事務局長を務められている只野靖弁護士に、飯舘村民三千人以上が東京電力に損害賠償を求めたADR(原子力損害賠償紛争解決センター)の現状と、それが孕む様々な問題点についてお伺いしたいと思います。最初にお伺いしたいのは、初期被曝をめぐる賠償についてです。ADRは二〇一七年一二月に飯舘村民の初期被曝に関する和解案を提示しましたが、東京電力側がそれを拒否したため、二〇一八年七月に仲介手続きが打ち切りになるという事態が生じました。今中哲二さん(京都大学)、糸長浩司さん(日本大学)らが中心になって運営されている飯舘村放射能エコロジー研究会(IISORA)が、今年二月に福島でシンポジウムを開きましたが(「原発事故から七年、不条理と闘い生きる思いを語る」、二〇一八年二月一八日、福島県青少年会館。以下で映像が公開されている。動画へ)、そこで資料として配布された飯舘村ADR関係の書面(IISORAのホームページで公開されている。飯舘村ADR関係の書面)をすべて読んでみて、いくつか驚いたことがあります。まず、東京電力は事故企業であるにもかかわらず、自分たちがまき散らした放射能被害について、あからさまに賠償を拒否するという姿勢を示しています。例えば、飯舘村民の九ミリシーベルト以上の初期被曝に関する賠償の申し立てについて、「一〇〇ミリシーベルト=しきい値」説を楯にとって、この数値では健康被害はあり得ないのだから、一切応じることはできない、という主張をしています(飯舘村は、二〇一一年四月二二日になってはじめて「計画的避難区域」に指定され、その後一ヶ月程度で村外へ避難するようにという政府からの指示を受けたという事情から、事故後二ヶ月以上にわたって高線量の村内に残っていた住民が多く、福島第一原発付近の他の強制避難区域の住民に比べて被曝量が非常に大きい地域です。例えば、福島県県民健康調査のデータでも、五ミリシーベルト以上被曝した住民の割合は三二・四%となっており、他の強制避難区域がおおむね一%以下なのに対して、格段に大きい被曝量となっています)。弁護団は、こうした主張をどのように受け止められたでしょうか。

只野 
 初期被曝慰謝料に関しては、東京電力の対応がある段階で大きく変わったと思っています。どういうことか。飯舘村の村民の方々が、集団申立て、ADRに至った経緯を含めて、ご説明します。元々、長泥地区の一部の方々が、初期被曝慰謝料の支払いを申立てました。ADRは和解案として、妊婦子供さんに対しては一人あたり一〇〇万円、その他の方には五〇万円という金額を提示しました。長泥の初期被曝量はとても大きいですから、月々の慰謝料では賄いきれない性質の異なる不安がある、ということでADRが初期被曝を認め、和解案を提示したわけです。様々な経過があり、長泥に関しては、東京電力も和解案を受諾しました。これは比較的早い段階、二〇一四年のことです。東京電力が受け入れた理由としては、長泥の汚染度が高いということと、また長泥が飯舘村の中では唯一帰還困難区域だったことが大きいと思います。

その後、蕨平地区と比曽地区でも、同様の申立てがありました。ADRは、蕨平は長泥と同様の汚染度だと認めて、同じかたちで一〇〇万円、五〇万円の和解案を出しました。比曽に関しては、汚染度が一段階低いので、妊婦子供八〇万円、その他が四〇万円となった。しかし、東京電力はこの和解案を拒否したのです。

飯舘村の集団ADRでも、額がぐっと下がってしまいました。しかも、全員一律ではなく、個人の被曝線量の違いで線引きがされ、長泥地区の方には一人あたり五〇万円、その他の地区の方には一五万円という金額でした。でも、東京電力はこれも拒否しました。
東京電力は、二〇一四年には長泥の初期被曝慰謝料の支払いを受け入れましたが、その後は、和解案を拒否し続けています。どこかで考え方の転換があったのではないか。ある時点から、放射線の健康被害を認めることについては、過敏に反応するようになった。国から何か言われているのかもしれない、という印象を強く持っています。

佐藤 
 初期被曝について賠償を拒否するのは、それを認めてしまうと多数の住民に賠償を認めなければならないという意味で波及効果が大きい、ということでしょうか。

只野 
 それもあると思いますが、甲状腺ガンの問題も含めて、「放射線による健康被害はない」というのが政府・東京電力の一貫した姿勢ですから、健康被害あるいは健康不安に対しての慰謝料を払うとなると、辻褄が合わなくなってしまう。そこは非常に強い姿勢を感じます。

佐藤 
 確かに政府は、福島県の県民健康調査などとも認識を合わせるかたちで、健康被害は一切ないという論陣を張っていますね。それと賠償拒否がセットになっているとすれば、初期被曝に関する東京電力の態度は、政府の方針に影響されている部分が大きいと考えられるわけですね。

只野 
 そう思っています。

佐藤 
 飯舘村ADR関係の書面を読んでいて、もう一つ驚いたことがあります。飯舘村は、二〇一一年四月二二日に計画的避難区域に指定され、その後おおむね一ヶ月をめどとして村外に避難するように、と政府から避難指示を受けました。東京電力は、政府が指示した期間を越えて飯舘村に残っていた場合は、それにまつわる事情は一切考慮できないし、それがもたらした被曝は言わば「自己責任」である、と述べている。非常に驚くべき物言いです。原発過酷事故を起こした企業が用いることのできるロジックとは到底思えません。自分が放射性物質をまき散らしておいて、指定された期日までに避難しなかった住民については、「あとは何があってもあなた方の責任です」と自己責任化するということですから。

只野 
 東京電力には「それはあなたたちが言うべきことではない」と何回も抗議しましたが、彼らは撤回していない。東京電力側の不遜な態度は、こうした主張にもよく現れています。既に事故から六年、七年と経っていることもあり、もう社会的に叩かれることもないと思っているのか、東京電力の側を向いた弁護士が無茶なことを書き過ぎている印象を受けます。事故直後であれば、そんな意見は絶対に出てこなかったと思います。

佐藤 
 原発事故に関わる賠償は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構への資金供給を通じてほぼ国が肩代わりして支払っており、つまり私たちの税金から賄われています。このように、国は福島第一原発事故後も、国策として東京電力を保護している。そうした政策自体が、東京電力に尊大な態度を取らせる要因を作っているのではないでしょうか。

只野 
 明確にそうでしょう。損賠賠償を払うかどうか、和解を受け入れるかどうかは、本来東京電力が判断することです。しかしスポンサーが国なので、ある時点以降は、金額が大きかったり、あるいは質的に重要だと思われるものについては、東京電力の判断ではなく、国のしかるべき部署にお伺いを立てている可能性が非常に高い。初期被曝慰謝料についても、必ず国と相談しながら回答しているはずです。最初に申し上げたように、東京電力は、二〇一四年には長泥の初期被曝慰謝料の和解案を一旦受け入れており、実際に慰謝料も支払われているわけです。しかし、その後に申立てをした住民に関しては、東京電力は和解案を拒否している。我々の依頼者の中には長泥の世帯の方がおり、ADRもその方達には、二〇一四年と同水準の和解案を出しています。しかし、東京電力はこれを拒否しているわけです。

佐藤 
 東京電力の態度がある時期から明確に変わった、ということですね。

只野 
 そこは、はっきりしています。東京電力の一連の対応は、ある時期を境にしてまったく辻褄が合っていない。我々は、こうも言いました。東京電力は、この程度の被曝線量では健康に影響がないと言った。では、なぜ二〇一四年に長泥の一部住民に慰謝料を払ったのか。影響がないのであれば、あれは間違いだった、支払った慰謝料を返せとでもいうのか。しかし、そんなことは言わない。ならば、なぜこちらの和解案が受け入れられないのか。東京電力は、理由を論理的に説明できない。結局、あの時はあの時、今回は今回だと、その程度の「言い訳」しか出てこない。時間が経ったから、としか言いようがないわけです。つまり、ある時期に賠償額を絞るという明確な判断が出され、それ以降は現実的に賠償額を絞ってきている。これは明確に言えることだと思います。

佐藤 
 繰り返しますが、そこに、国の意向も働いているだろうということですね。
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