推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫 書評|中村 邦生( 風濤社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年1月19日 / 新聞掲載日:2019年1月18日(第3273号)

推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫 書評
面白さは、端的かつ抜群
忙しい現代人も、買うべし。読むべし。

推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫
著 者:中村 邦生
出版社: 風濤社
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なるほど、こんな手があったのか! この本を手に取り、切歯扼腕、地団駄を踏んでいるベテラン編集者がいるにちがいない。

作家による作家の批評文には書き手の文学観、人生観が凝縮され、その面白さはつとに知られてきたことで、これまでも「個人全集月報集」や「文庫〈解説〉傑作選」など様々なアンソロジーがあるにはある。芥川賞の選評をまとめ、文学史を語る新書もあった。

が、「作家による作家の全集内容見本」の推薦文のアンソロジーである本書は、従来の試みとはひと味もふた味も違い、面白さは、端的かつ抜群である。第一に、全集の内容見本に広くあたり、文学史に残る一流の作家とがっぷり四つに組んで書かれた推薦文を精選しているから、読み甲斐がある。第二に、全集の宣伝用小冊子である内容見本の文章は、月報や選評に比べて短く、文章は推敲が重ねられ、名文度が高い。そして第三に、内容見本は希少性も高い。

元編集者で、英米文学者にして芥川賞候補に二度なった編者が「はじめに」で書いているように、ツルツルして薄っぺらい全集の内容見本は、月報や選評とは違って散逸しがちで、古書店でも高値がついていることが多い。評者も新聞記者という仕事柄、多くの全集内容見本を持っているが、実は穴だらけである。これを丹念に収集し、84作家の選りすぐりの名推薦文108編を集め、小粋なコメントをつけている。どこから読んでも名文、しかも味も香りも違う名文が並び、手にとって軽く、持ち重りするアンソロジーとなった。

若くして病没した知友に寄せた川端康成の文章からは、作家の風貌がくっきりと現れる。
〈故人は私の女房が贈つた林檎の如きも、珠を磨くやうにつや拭きして、床の間に飾りて眺め、手紙を書くにも推敲を重ね、数日費やした。名もなき木草、小さい動物を見るにも、深き愛ありて、談笑裡に私の襟を正さしめた〉

風貌は、「交尾」「檸檬」など珠玉の短編を残した梶井基次郎の文学そのものでもある。

鷗外を生涯、神のように敬慕した永井荷風の箇条書きの推薦文は、美文はなく、事実と思うところを淡々と書いており、かえって鬼気迫る。
〈一 文学者にならうと思つたら大学などに入る必要はない。鴎外全集と辞書の言海とを毎日時間をきめて三四年繰返して読めばいいと思つて居ります〉

そして〈何事かと思う/言語というよりもひとかたまりの巨きな森のざわめきである。/書かれたというよりも地平にいつのまにか立ち現れたのである〉に始まる谷川俊太郎による「草野心平頌」は詩であり、詩への批評である。そうして、〈書物というより空気の張りである。/文字というよりヒトの咆哮である。/全集というよりひとつの生涯である。〉とつづく下りは、もはや草野心平その人である。

吉本ばななの父、吉本隆明について書いた「父と全集」には、吉本家の暮らしと父と娘の息吹が伝わり、ショートショートの傑作であった。こうして名文をあげていくとキリがない。

買うべし。読むべし。忙しい現代人でも、ネットの短い文章しか読まない若者にも、本書は馥郁たる時間を与えてくれるだろう。
この記事の中でご紹介した本
推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫/ 風濤社
推薦文、作家による作家の 全集内容見本は名文の宝庫
著 者:中村 邦生
出版社: 風濤社
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