農家が消える 自然資源経済論からの提言 書評|寺西 俊一(みすず書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年1月19日 / 新聞掲載日:2019年1月18日(第3273号)

農家が消える 自然資源経済論からの提言 書評
自然資源経済による経済学批判
タイトルに込められた静かな怒りと警鐘

農家が消える 自然資源経済論からの提言
著 者:寺西 俊一、石田 信隆、山下 英俊
出版社:みすず書房
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本書は「自然資源経済」という概念に基づく経済学批判であり、玉野井芳郎教授が提起した「広義の経済学」の現代への継承と評者は読んだ。自然資源経済とは「各種の自然資源を基礎とし、そのうえに成り立つ経済」である。『農家が消える』というタイトルには、これまで営々と築き上げてきた人間と自然の「持続可能で豊かな関係」が破壊され、喪失されようとしていることへの静かな怒りと警鐘が込められている。社会・経済が抱えている矛盾が農業・農山村という領域に集中的に発現しているのであり、それに対する強い危機意識が本書の背景にある。

第Ⅰ部「歴史的な岐路に立つ農業・農山村」では、日本の農業・農山村の実情とその衰退を加速化する農政の動向が完結にまとめられたうえで、人間と自然の関係を再構築するための取組と大胆な政策が記されている。

最大のポイントは「過疎・高齢化によって自然資源と主体的なかかわりを持ってきた地域コミュニティ自体の衰退が進むなかでは、その地域コミュニティの再生・再編をめざさなければ、自然資源とのかかわりの再構築自体が不可能」であり、その実現に向けた「日本型村のリニューアル」直接支払の提言である。第Ⅱ部の内容と関係してくるが、「地域住民のグループが行う地域の自然環境や居住環境の向上、活動拠点の整備、共同して行う起業などの内発的な取組を、企画段階から地方自治体等と連携して支援する支払」である。これは上から進められている現在の「地方創生」批判でもある。

第Ⅱ部「世界のなかの自然資源経済」では、EUでの取組が紹介されているが、なかでも農地の64%が条件不利地域にあり、総人口の42%が山岳地帯に居住しているオーストリアの小規模自治体の調査結果が参考になる。そこから導き出されるポイントは「従来からのコミュニティがしっかりとした結びつきを持っており、地域住民が新しい活動を始めやすい土壌が整っていること」、「そのような地域コミュニティから出てくる意見を汲んでサポートできるだけの、最低限の体力を持った基礎自治体が存在していること」、「これらの地域コミュニティや基礎自治体の地域再生活動を支える州政府、連邦政府、およびEUの政策枠組みがしっかりと存在していること」の3点である。重要なのは、基礎自治体がリーダーシップを発揮するのではなく、住民活動のサポート役に徹している点にある。CAPを改革して第2の柱を導入したフランツ・フィシュラーは実はオーストリア出身である。

このほかイギリスのナショナル・トラスト、ドイツの再生可能エネルギーへの取組と、それらと対になる日本の状況分析も参考になる。H・デイリーのエコロジー経済学に基づく比較生産費説の批判的検討と「貿易理論のエコロジー的転換」の提唱は得るところが多い。

ローマクラブの『成長の限界』(1972年)から50年近くが経過しようとしている。前年にニクソン大統領による金ドル交換停止により固定相場制は廃止、「海図なき航海」に放り出され、翌年には第1次石油危機により世界的な高度経済成長が終焉した。今から振り返れば、富源の終焉を迎えていたにもかかわらず、国家債務の拡大を梃子に資本蓄積のための金融空間を創出することで資本主義は命脈を保ってきたに過ぎなかったように思う。金融を実体経済の僕とし、社会に埋め込まなければならない。この課題に最前線で直面する農山村にとっての羅針盤が本書の提起する自然資源経済なのである。
この記事の中でご紹介した本
農家が消える 自然資源経済論からの提言/みすず書房
農家が消える 自然資源経済論からの提言
著 者:寺西 俊一、石田 信隆、山下 英俊
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「農家が消える 自然資源経済論からの提言」出版社のホームページはこちら
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