新宿 「性なる街」の歴史地理 書評|三橋 順子( 朝日新聞出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年1月19日 / 新聞掲載日:2019年1月18日(第3273号)

新宿 「性なる街」の歴史地理 書評
実証と理論を一身に併存
戦後風俗研究に欠かせない決定版の誕生

新宿 「性なる街」の歴史地理
著 者:三橋 順子
出版社: 朝日新聞出版
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本書は赤線・街娼・遊郭といった世界の固定観念を覆す新発見で満ちている。

赤線という官許の売春エリアと、風俗のなかでもヒエラルキーとして最底辺とされる街娼(立ちんぼ)の料金では、意外なことに街娼の値段のほうが高いという。赤線は自分の店で客をひき、短い時間で客を入れ替えるために数をこなさなければならない。ライバル店もあるために、価格競争効果がきいて安くなるのだ。

それに対して街娼は客と一対一の交渉からホテルでことがすむまで時間がかかる。リスクがあるが、競争相手も乱立していないので、言い値が通りやすい。

旧赤線地帯の多くが駅から遠い地点にある謎については、赤線が廃された1958年(昭和33年)当時、赤線の多くは当時交通の主要手段だった都電を利用していたのでけっして交通の便がわるくはなかったのだ。荒川線しか残らない現在の東京交通網からではなかなか旧赤線の立地条件がわからない。

赤線最後の日は、1958年3月31日という通説があるが、正確には警察の指導によって業者側が1月末、2月末に前倒ししたために、3月31日に蛍の光が流れたのは虚構だったという事実。

等々、精微な考証が盛りだくさんだ。

問題点も挙げている。

風俗で働くセックスワーカーたちは、現在のわが国においては幻の存在である。売春防止法によって売春は「人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものである」と規定されたために、セックスワーカーたちは尊厳を害し、善良な風俗を乱す者であるとされ、法的に存在を認められず不可視化されている。良かれと思って手をさしのべているのに彼女たちの状況を悪くしているのだ。

性を扱うと、人間は建前と本音が乖離する。

少女の援助交際を魂が穢れるからやってはいけない、こんな少女が生まれたのも戦後教育の結果だ、ともの申す妻子持ちの政治家が、私生活では長年にわたって若い愛人と援助交際を継続中、などというケースは掃いて捨てるほどある。

セックスワーカーへのステレオタイプな見方に対しても著者は反論する。

〈赤線の女給は多様なのだ。だからこそ、できるだけ丁寧に実態を見ていくことが大事だと思う。セックスワークに従事する女性は搾取され必ず不幸な末路をたどるはず(いや、たどらなければならない)というような固定観念で見ては、何も見えなくなる。〉

まったくの同感である。

最近、セックスワーカー被害者論が喧伝され、彼女たちの人権を持ち上げる風潮がある。それよりも少ないお小遣いを貯めて、3ヶ月に1回、性感ヘルス店やソープランドで遊ぶ善良なるサラリーマンこそ被害者であろう。適当なニセ素股でお茶を濁されたり、やる気がまったく感じられないソープ嬢にも、文句を言わずに「どうもありがとう」と頭を下げて寒風に吹かれながら家路に就く物言わぬお父さんたちに光を!

「いかにも怪しげなトランスジェンダー」とみずからを称する著者は、業界で働いてきた実体験を土台に性社会・性文化研究家になった、実証と理論を一身に併存させた希有な人物である。戦後風俗研究に欠かせない決定版が誕生した。
この記事の中でご紹介した本
新宿 「性なる街」の歴史地理/ 朝日新聞出版
新宿 「性なる街」の歴史地理
著 者:三橋 順子
出版社: 朝日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「新宿 「性なる街」の歴史地理」出版社のホームページはこちら
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